第4話 クレイグ・ウエステッド
「あのね・・この前エストと学園帰りに商業区まで遊びに行ったの。その時にばったりイリーナのお父さんと会ってね。」
「はぁ。それで??」
腕輪の経緯をちゃんと聞く事にしたイリーナは、椅子に座り直して耳を傾けた。
「うん。そしたら『良かったらウチの物販店に遊びにおいで。』って言ってくれたの。」
****
「わー!!スゲーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ち、ちょっとエスト!そんなにはしゃがないで。」
「ははは。楽しんでくれてるみたいだね。誘った甲斐があったよ。」
髪をオールバックに綺麗に整え、グレーのスタイリッシュスーツを着こなし、笑いながら2人の傍に現れた男性は、イリーナの父であるクレイグ・ウエステッドだった。。彼のくしゃっとした笑顔は、その人柄を表しているようだった。
「うん!!すごい楽しいよ!!・・あ、です!!」
「そうかい?良かったよ。ゆっくり見ていってね。」
「ありがとうございます。」
カリンが会釈すると、片手を上げて店の奥に歩いていった。
ウエステッド商会は主に家具や調理器具や道具、雑貨などの様々な生活用品から嗜好品、洋服などの製造販売を主にしていた。その中でもエストとカリンが招かれた物販店は、雑貨を主体としたお店で飾り棚には2人が見たことが無い商品がたくさん並んでいた。
カリンが気に入ったのは、スイッチを押すとダンスのスタンダードホールドをしている男女の人形が、音楽と共に軽やかで優雅な装飾を施された箱の上を動き回るオルゴールだった。ジーッと見つめながら「可愛い・・これ可愛い・・・。」と何度も呟いていた。
「あの・・・すいません!おじさん!」
エストも気になった商品があったようで、店の奥でスタッフの女性と話をしていたクレイグに話しかけた。
「ん?どうしたんだい?」
「この腕輪って、好きな文字を彫れるの?・・・彫れるのですか?」
「へーー!?君がこれに興味持つとは意外だったよ。うん、好きなように文字を彫り込めるよ。25文字くらいまでだけどね。あと、無理して敬語にしようとしなくていいからね。」
「うん!ありがとう、おじさん。」
「どうしたの?」
腕輪がある棚の前で話をしていた2人のもとにカリンが駆け寄って来た。
「わぁ!可愛い腕輪だね。でも、エストが腕輪に興味持つなんてびっくりしたよ。」
「それ、今おじさんにも言われた。」
「あはははは。」
チラッとエストに目を向けられたクレイグは取り繕うように笑った。
「んーーー。でも、母ちゃんの手伝いで貯めたお小遣い150メルト(日本円で1万5千円)くらいにしかないからなぁ・・・。」
「え!エスト150メルトも持ってるの?」
「今は持って無いよ。家に帰れば貯金箱にそれくらいはあるかな。」
「凄いねーー!!ってこれ買うの??」
「うん・・でも、足りない。」
「エスト君、この腕は1本80メルトだよ??あ!!さては2本欲しいのかな?」
クレイグはエストが自分とカリンの分として、バラやカーネーションが施されている腕輪を2つ買おうとしているのかと勘ぐってみたが、エストは予想外にゼラニウムが施されている彫刻を指差した。さらに本数も予想外だった。
「ホントはこの腕輪が5本欲しかったんだ。でも、お金足りないから何か違うのを探してみるよ。」
「5本!?!?」
「あ!!」
エストの口から出て来た本数に驚いたクレイグに対して、カリンは何かに気づいたようだった。
「私の貯金箱のお金と合わせても260メルトかぁ・・・。」
「え?カリンも協力してくれるの?」
「もちろん!」
「ありがとう。カリン!」
「ど、どうして、5本も欲しいんだい?」
「僕たち来年に洗礼の儀式があるから、もしかすると来年で全員がバラバラになっちゃうかもしれないでしょ?だから、僕のお小遣いでイリーナやドゥーエ、クリードに何か友達の証をプレゼントしたいなって考えてて・・だけど、カリンが協力してくれても僕達が貯めてたお小遣いじゃ足りないみたいだから・・聞いておいてごめんなさい。」
ペコッとクレイグにエストは頭を下げた。
口を0の字にして驚いていたクレイグだったが、やがて「ふっ」と優しく微笑むとエストとカリンの頭を撫でた。
「やはり、イリーナをミューレルに入れて正解だったな。」
「どしたの?おじさん??」
エストが不思議そうにクレイグを見上げる。
「エスト君、カリンちゃん、君たちに240メルトで5本売るよ。」
「え・・・えええ!?!?」
「いいんですか??」
「うん。それでいいよ。それに彫刻代もサービスだ!!!」
「ええええええええええええ!?」
「でも、それじゃ・・。」
「いいんだよ。ホントは全部って言いたい所だけど、それじゃ君たちの気が済まないよね?だから君たち2人が3人に腕輪をプレゼントして、僕が君たち2人に腕輪と彫刻代をプレゼントするって事でどうだい?」
「え、で、でも・・・。」
「うん、何か悪い気がする・・・僕、またお小遣い貯めて残りのお金を払うよ!あの・・・ずっと後になっちゃうかもしれないけど・・。」
「うん!そうだね!!私も手伝う!!!」
2人の言葉を聞いたクレイグは目を細めると、今度は床に膝をつき2人を抱き寄せた。
「そんな事しなくて大丈夫だよ。僕が君たちにプレゼントさせて欲しいんだ。イリーナの友達になってくれてありがとう。イリーナに君たちのような友達がいてくれて、僕はとっても嬉しいんだ。どうか受け取ってくれないかな??」
少し迷っていた2人だったが目を合わせると、同時に頷き
「「ありがとう!おじさん!!!!」」
と、クレイグにお礼を言い、彼をギュッと抱き締め返した。
「ふぇ・・ふ・・・ふぇええん。」
「???」
どこからか変な声が聞こえて来たのを不思議に思ったエストは、声のする方に目を向けると、商品棚から顔を覗かせていたスタッフの女性が号泣していた。
****
「ホントはもう少し後に渡そうと思ってたんだけど、さっきの会話聞いてたら今かな?って思って。」
「そ、そう。で、でも、まったくお父様は・・しょ、商売っ気が無いんだから!!」
「ホ、ホントだよな!!!」
話を聞き終えたイリーナとドゥーエは、そんな事を言いながらも顔を赤くしながらそっぽ向いていた。
ドゥーエがイリーナの言葉に同意したのは、ドゥーエの父親はクレイグの幼馴染でウエステッド商会の経理と総務の統括部長をしていたからだった。
「このツンデレカップル、本当に可愛いよね。」
顔を真っ赤にしているイリーナとドゥーエを指差してクリードがそう言うと
「「カップルじゃねーよ(ないわよ)」」
と息ピッタリに反論してきた。
「それに私ツンデレじゃないわよ!!!」
「俺だってそうだよ!!」
「「あはははははは!」」
「ちょ・・あ、あんた達の方が仲良しカップルじゃないの!!」
エストとカリンが大声で笑っていると、ムキになったイリーナがお返しとばかりに2人を指差した。
「うん。僕たちはずっと仲良しだもんね。」
「ふぇ!?も、もうエストったらーーー!!」
しれっとそう言うエストに、今度は顔を真っ赤にしたカリンがエストの背中をバンバン叩き始めた。
満更でもなさそうだ。
「いてっ・・痛いってカリン・・。くそっ!!くらえ!クリードの盾!!!」
エストはカリンの手から逃れると、クリードの背中に回り、クリードをカリンの方に突き出した。
「おい!!やめろよ!!」
「あはははは!!!」
ドゥーエが慌ててエストを止めるも、クリードは楽しそうに笑っていた。
そんな5人の様子を見ていたメリルは
「ずっとこの子達がこのまま一緒にいれたら良いのに・・・。」
そんな叶わぬことを願いながら、優しくも少し悲しげな目で彼らを見ていた。
※補足
通貨制度
硬貨 1ステア硬貨 =日本円で1円の価値
5、10、25、50、100ステア硬貨と続く。
紙幣 1メルト札 = 日本円で100円の価値(100ステアは1メルト)
10メルト札 = 1,000円
25メルト札 = 2,500円
50メルト札 = 5,000円
100メルト札 = 10,000円
と、設定してみましたm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます