Ep8:「書庫」
村へと帰った二人はそのままショウの家、村長宅へと急いだ。
すでにショウは回復しており、普通に生活していた。
「レン。昨日はすまなかった。もろもろの件を話したい。」
ショウは家に来たレンを見るなりそう言った。
「それに、、、君が私の命の恩人だね?兄さんから聞いているよ。」
ショウはユーキを見ながらどこかもどかしそうにそう言った。
「あ、はい。元気そうでよかったです。」
ショウはありがとうと下手に微笑むと、ユーキに名前を聞いた。
「ユーキと言います。よろしくです。」
「ユーキだね。。。よろしく。あ、敬語はやめてくれ。村長という肩書だが、年は君とほとんど変わりないから。。。」
「あ、は・・・うん。わかった。」
ユーキにもどこかもどかしい気持ちがあったがショウのそれとは違っていた。しかしショウの同い年とは思えないほど雰囲気や言葉回しに驚いていた。なんだろう。すべてが大人っぽく見えた。
「レンとは大違いだなぁ。」
「おい。聞こえてるぞ。」
後ろからレンが言った。
「なぁショウ。さっき変なことが起きてさ。。。」
レンは先ほど起こった出来事やディー・ノッドのことについて細かく話した。
「・・・つまり、この島の外から人が来たと・・・?」
「そうだ。」
「・・・」
ショウはしばらく考えていた。
「昨日の今日だ。不思議なことも驚きはしないな。」
ドスのきいた声が聞こえた。
いつの間にかショウの後ろにガンがいた。
「・・・そうだな。ユーキ。君が原因・・・とは言わないが、昨日今日で起きた数々の不思議な出来事の原因は1つと考えている。表面的なところでは見えない何か、深いところで原因がつながっているように思える。」
ショウは慎重に言葉を選びながら言った。
「おそらく、今後も多からず少なからず、今までではありえないような事も起きてくるだろう。それが私と兄さんの見解だ。」
レンたちが来る前にショウとガンは昨日の出来事について話し合っていた。
仮にも一度は殺そうと考えていたユーキに、その事こそ知られてはいないもののどこか気まずさを感じていた。
「まずは、そうだな。君についていろいろ聞きたいと思う。ユーキ。」
ショウはユーキを見ながらそう言うと着いて来てくれと言い廊下を歩き始めた。
「・・・星人ってワード言わないほうがいい??」
レンだけに聞こえる声でユーキが言った。
レンは必死に縦に首を振った。こっそり本を見たことはまだ内緒にしているらしい。
-どちらにせよ、自分は星人で~云々と嘘はつかなくてよさそうだ。あと昨日の今日でいきなり話を聞くのは失礼と考えてたけど、向こうから動いてくれるなら願ったり叶ったりだな。-
そのままレンとユーキは、ショウとガンの後を追って廊下の奥へと進んでいく。
しばらく広い屋敷の廊下を歩いていた。皆一言も発せずショウについて行く。壁の前で止まったショウが切り出した。
「ここは、村の長、つまり村長になったものだけが入れる"書庫"だ。」
そう言いながら壁に向かい、何かぶつぶつと唱え始めた。
すると壁が見る間に透明になり、奥に続く道ができた。
「さぁ。行こう。」
そういうとショウはまた歩き始め、皆ついていく。
奥には下に続く階段があり、その奥には扉があった。扉には禍々しい紋章の様なものが描かれていた。
ショウはその扉に触れながら、先ほどと同様に何かぶつぶつ唱え始めた。
すると扉に描かれていた紋章がスゥーと消えた。ショウはそのまま扉を開けて先に進んだ。
扉の奥は大きな部屋ではなく、10畳ほどの大きさの1ルームだった。
その部屋には本棚と机が1つずつ、また壁には地図が掛けられていたが、それ以外は何もない殺風景な部屋だった。
「ん?書庫・・・だよな?」
ユーキは当然の疑問を口に出して言った。
「そうだ。ここはれっきとした書庫だよ。君がどこから来たかは知らないが、この光景が珍しいかい?」
「いや、この光景自体は珍しくはないよ。殺風景だなって思うくらいだ。でも、書庫っていうには、、、本が少なすぎやしないか?」
その通りだった。書庫なのに本棚が1つしかないこと。またその本棚も全然空きがあるのだ。
「そうだね。確かに・・・とは言えないか。私はこの島の外にある書庫を知らないからね。」
少し笑いながらショウは続ける。
「この島では"掟"として、本は村長の所有物として保管しなくてはいけないんだ。」
また掟か。。。と思いながらもユーキは静かにショウの話に耳を傾けた。
「そもそも、この島には本はないなんだ。掟で作ってはいけないことになっている。その真意は初代村長にしかわからないが、村の皆は何一つ疑問も不満も持たず守っている。」
「ただ、この島には時折、本が"現れる"。」
「現れる??」
現れるという言葉に反応するユーキ
「そう。現れる。この島はそれなりに大きいが皆農業や狩りなどで地形は知り尽くしている。以前まで何もなかった場所に突如として本が現れるらしい。本を見つけた村人が言うにはね。」
「本がパっとその場所に出現するっていうこと?」
「そうとも限らない。この島には結界があるからある程度の生き物は中に入れない。けど例えば、結界の上を飛んでいる鳥が、持っている本を落としたりした場合。本は生き物ではないから入ってこれるというわけだ。」
「なるほど。本がこれだけしかないってことは理解したよ。」
ユーキは納得した様子で言った。
「でもショウ・・・は13代目の村長なんだって?どういうスパンで村長になるのかは知らないけど、それだけ長い間にこれだけの本しかないのか?」
「そうだ。私で13代目。約300年たっているがこの本棚にあるだけだ。これだけしか、、、というより、寧ろよくこの期間で集まったものだなという感じがするが。私の代では1冊の本が村人によって見つけられ私のもとに届いた。」
そう言いながら本棚にある赤い表紙の本に手を伸ばした。
「この本がそうだ。中にはある物語が書かれている。」
ショウはそういいながら中身をユーキに見せた。
「え・・・」
中には見たこともない文字が羅列していた。しかし、驚いたことは見たこともない文字ではなかった。その文字が読めることだった。
「ある程度、特殊な言語というか、俺がいた世界の文字では無いんだろうなぁとは考えていたけど。。。」
「ユーキはこの文字を見たことがないんだね?でも・・・読めるんだね?」
ショウは確信があるような言い方でユーキに聞いた。
「あ。あぁ。こんな文字は見たことがない。でも。。。読める。童話っぽい内容だな。」
「そうだね。これは他の村長の代に見つけられた童話集にもあらすじが記載されていた。その物語の本編。何の変哲もない童話だね。」
そう言うとまた別の本を本棚から取り出した。次は緑色の本だ。
「この本は、10代目の時に見つけられた本だ。異世界のことや、転生者のことについて記載されている。かなり古い本でとても重要な本だ。」
とうとう来たかというような表情で、食いつくようにショウの話を聞くユーキ。
「君は・・・ユーキは、異世界から来たんだね?つまりこの世界じゃない別の世界から転送してきた者だね?」
これまた確信があるような言い方でユーキに聞くショウ。
その質問に対してユーキは即答する。
「あぁ。そうだ。俺からしたらこの世界が異世界なんだけど。別の世界だと思う。レンに聞いたら俺が知っている地名とか知らなかったし。この本の文字も見たことないし。そのくせ言葉は通じる。・・・あぁ、改めて考えると俺異世界に転送してきたんだなぁ。」
少し涙ぐみながらユーキが言った。
「おいおい、いい歳こいて泣くなよなぁ。」
笑いながらレンがユーキをからかった。
「お前にはわからないだろうなぁ!」
ユーキが今にも飛び掛からんとしたところをショウが止めた。
「いい加減にしろ。レン。ユーキにだって親や友人はいるだろう。急に離れ離れになって泣かないほうがおかしい。」
「そ、そうだな。言い過ぎた。すまん。」
レンが謝ると仕切り直しと言わんばかりにショウが続けた。
「では、話を戻すが、この世界では、ユーキみたいに異世界から転生して来た者のことを"星人"という。」
「へー。ホシビトねぇ。」
ユーキは横目でレンを見た。必死で口をパクパクさせている。どうやら先ほどからかったことを謝っているみたいだ。
「この本は約100年前に作成されたものだが、その時点で星人は3人しかいなかったそうだ。もちろんこの本の作者が意識しないところで別の星人がいた可能性はあるが。。」
ショウはさらに続ける。
「この100年間でどのくらいの星人が誕生したかは知る由もないが、頻繁に転生してくるというわけではないようだ。しかし、君以外にも転生者はいるかも、ということは知っていてほしい。」
その事実を知り、ユーキは少し安堵した。
「なんか、よかった。仲間、、、っていうか同じ境遇のやつがこの世界のどこかにいるかもって考えるだけで大分心情が増しになったよ。」
よかったと微笑むショウは話をつづけた。
「ここには星人の特性なんかが記載されているんだけど。。。レン、ユーキ。その話の詳細はあるところへ行く道中で実践をしながら話したい。」
急に話を振られたレンは驚いたように聞いた。
「実践?実践って魔物との実戦のことか?言っとくけどなーショウ。ユーキには魔祖がないぜ。あ、あとある場所でどこだ?」
「そう。魔物との実戦を踏まえて話す。ユーキの力を引き出すには私とレンのサポートが不可欠だ。あとユーキから魔祖を感じられないのは、星人だからだ。」
「星人だから??なんか関係あるのか?」
するとショウは大きくため息をつきながら話した。
「レン。お前は知っていると思っていたんだがな。親父の代の時にこの本を見たはずだが?」
「ぎくっ」
ショウにばれていた。
「ぎくって声に出すなんて、今日日聞かないなぁ。」
ユーキがしみじみとにやけながらそう言った。
「その件はすでに過ぎたことだ。後で一発殴るくらいで許そう。今は特殊な事態だからな。」
「その一発で死ぬ可能性はありませんでしょうか。」
震えた声で呟くようにレンは言った。
「さて」
ショウが続ける。
「スルー!」
レンは叫んだ。ユーキも心の中で叫んでいた。
「ある場所とはどこか。レン、お前が行きたかった場所だ。」
「え。じゃあまさか。」
「この村が出来てから、そこから帰ってきた者はただ一人。お前の親父さん、ディズさんだけ。」
「今から私とレン、それからユーキの3人でその場所へと向かう。」
そう言うとショウは壁に掛けてあった島の地図の一部、真黒く塗られている部分を指で差しながら続けた。
「その場所の名前は"神域"[ソーン樹海]。入ったものは2度と戻らないといわれる魔の樹海だ。」
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