Ep3:「厨二病」

特に何事もなく、レンは村に戻っていた。


ガンに言われたように、村長の屋敷へと上がりくつろいでいた。


村のみんなもそれぞれの家に帰り、とりあえずの厳戒態勢を取っていた。


屋敷の客間に布団を敷き、乾いた服を着せ、横たわっているのは謎の男。


特に外傷もなく心臓は動いている。なんなら健やかに寝息まで立ててる。


寝ている…ってことはないとよなぁと思い、気を失っているだけと判断した。


「誰なんだ。こいつ…」


不審がるような言動が口から突いて出た。


しかしその言葉とは裏腹に何か惹かれるようなものも感じていた。


頭が、胸が、心が、文字通り吸い寄せられるような。


その顔は特段イケメンとは言えないが、整っており、そしてその体は筋肉質だがとても痩せていた。


「ガリガリなのに筋肉がついてる。脂肪が少ない…ガリガリ筋肉。ガリキンだな。ガリキン。」


床の畳の線を数える。


「ガリキン1、ガリキン2、ガリキン3・・・」


ガリキンが100を超えた頃だった。


「んぬぁ!遅い!暇だ!何してんだガンさん!」


すると屋敷の外で物音がした。


ドアを開け入ってくる。


「だ…誰だ…??」


恐る恐る声を出して聞いてみた。


勢いよく扉が開く。


入ってきたのは血だらけのショウを抱えたガンだった。


「えぇ!!!?しょ、ショウ!!!ドドドドドユコト?!!」


「ハァ…ハァ…客間にいたかのかレン…手を貸してくれ…くっ、回復する。。。」


すぐに駆け寄りショウを横にした。意識はあるようだが酷く熱がある。


「ハァ…ハァ…魔障にやられたな…傷は…深いが致命傷じゃねぇ。問題は出血量か。」


そう言いながら傷が深いところへ両手を当てる。その両手は緑色に光輝いていた。


「な。なぁガンさん。ショウ大丈夫か?なんかやれることあるか??なぁ?」


居ても立っても居られない様子のレン。


「大丈夫だ。くっ…ハァハァッ」


徐々に傷が癒えていくショウ。しかしそれとは逆に息遣いが荒くなるガン。


「が、ガンさん、大丈夫かよ。魔力が足んないのか?俺がやるよ!魔力量には自信あんだ!」


「違う…ふっ…ハァハァ…魔力量じゃッハァ…ない…。」


いつも顔色が悪いガンがより一層悪くなっていく。


「血が…血が足りないんだ…ハァハァ。ここにくる途中もずっと魔法で輸血はしていたが…この村にはO型は俺らしかおらん。


そういうガンの手から溢れ出ていた光が徐々に弱まりつつあった。


ガンの顔はとても苦しそうで、そして何かをあきらめたような顔をしていた。


ーふざけるな。そんな顔するなよー


とても苦しそうにするガンを目の前に、何もできない自分に焦りと苛立ちを覚えるレン。


「くそっ!このままじゃ・・・」


すでに魔法はその手から消え、激しい息遣いだけが部屋に響いていた。


ショウの傷はあらかたふさがったものの、顔は青白く生気が失われつつあった。


二人とも何もできないままガンの荒い息遣いだけが部屋に響く。


何もできない状況が、二人を絶望させていく。しかし。


ふと後ろに気配を感じたレンは瞬時に振り返り、臨戦態勢を取った。


「あ、あのぉ、俺O型だけども・・・使えますか?」


そこにはリヴァイアサンと共にいた青年が立っていた。


彼は目を覚まし、後ろで話を聞いていたのだ。


「つ、使えますか??」


恐る恐る聞いてくる青年に固まる二人。


「お、お前、大丈夫なのかよ?」


レンが問う。


「え?なんのことですか?ってかここどこですか?んん???そもそも日本?」


聞きなれない単語に反応ができない二人。だが


「と、とりあえずっ!君はO型なんだな!??」


うなずく青年。すぐさまガンは彼を自身の近くに呼び作業に取り掛かる。


「お、おいおい!大丈夫かよ見ず知らずの奴を・・・!」


至極もっともな意見だった。


「かまってられん。この子がO型でなくても、この子を怪しみ輸血させないでもショウは死んでしまう!」


「それであれば俺はこの子に賭ける。副村長として。いや兄として…!」


ガンのすさまじい勢いに黙ってしまうレン。そしてそれは青年も同様だった。


「と、とりあえず、皆さん日本語話してるし、ここは日本として、村?村って言ったよね??ってことは山奥。。。んでこの倒れている人は、うわっ!!血・・・!血だらけ・・・」


目の前の見慣れない光景に尻もちをつきながら後ずさる。


「こっちに来てくれ。輸血を始めよう。時間がない。」


「そ、そうか。血だらけだもんね。血が足らないのか。」


決意を決めたように立ち上がろうとするが。


「あ。あれ。なんだ足に力が入らない・・・・」


「脱力したのだろう。そのまま動きなさんな。」


ガンはそう言うと、青年の足に掌を向け何かを唱え始めた。


「~」


何を言ったか聞き取れない。そう思った一瞬、掌から光が出た。


「うわっ。まぶしい。なんだ???」


とっさに口をついて出た言葉だった。


「さぁもう立てるだろう?」


あれ、と青年はつぶやくとごく自然に立ち上がった。


「え…なに…したの・・・・?」


「魔法だ。早くここに来てくれ。」


「え…?ストレートに中二病発症してるタイプのおじさん?え?」


そう言いながらガンの方に歩いていく。青年の顔はにやけていた。


「ま、魔法ねぇ。魔法・・・」


笑いをこらえるのに必至そうだ。


「とりあえず、今から行うことに痛みは生じない。しかし大量に血が必要だ。君に危険が及ぶまでの血液量は必要ないと思うが、輸血が終わったらしばらくは安静にしておくんだ。わかったな

な?」


「はい、はい。いつでも大丈夫だよ。ってかここでやるの?器具とかないけど・・・」


周りを見渡す青年。だだっ広い空間だけで明かりは蝋燭のみ。ふと腕をつかまれた。


「え」


ガンはその腕に先ほど同様掌を向けつぶやき始めた。もう一方の掌はショウに向けていた。


「~」


またもや聞き取れない…そして何か一気に体から抜けていくような変な感覚、ふと眩暈を感じる。


「ウッ、ゥおエッ」


思わずその場に吐いてしまう。


「す、すまない!そんなに抜いたつもりはないんだが・・・大丈夫か・・・?」


ーなんだこれ・・・突然こんなに気分が悪くなるか普通・・・ー


「な…何をしたっ!!?」


強烈な眩暈を感じながらも必死にそう聞いた青年の目には大粒の涙が溜まっていた。


「い、いやだから輸血をだな、すまん。そんなに気分が悪くなるやつ奴はいないんだが、もう少し気を使うべきだった。」


ー輸血ゥ??ふざけんな。今の一瞬で輸血だ?。そんな魔法みたいなことがあるか!!?ただ掌を向けられただけなのにー


口には出さなかった、いや出せなかった。彼の頭はパニックに陥っていった。


「うぅ・・・」


ふとうめき声が聞こえた。その声は横たわっているショウから聞こえてきた。


「ショウっ!!」


レンがすぐさま駆け寄っていく。しかしガンがそれを制した。


「安静にしておけ。彼がO型なのは間違いないみたいだ。山は乗り切ったな。」


そういうとガンはショウを丁寧にゆっくりと持ち上げた。


「レン。先に言ったことは本当だ。いろいろ話をしたい。だが村長であるショウが同席しなくては話にならん。まぁショウが話をすること自体許すとはいえないが。しかし、レン。お前は知る必要がある。」


そういうガンは、いや今日のガンは何かちがう。ものすごいしっかりしている。(いつもしっかりしていない、とは言っていない。)


「彼の存在も、リヴァイアサンの出現も。ショウの容体が回復次第開催するが、とりあえずは待ちの状態だ。すまないが彼のこともしばらく頼む。放っておいても気分は良くなると思うがこれを…」


そう言うとガンは懐から飴玉ほどの大きさの光る何かを取り出しレンに渡した。


そしてそのままガンは部屋を出て行った。


「ちょっ!!え??え???!」


状況がつかめないレンはオロオロする。


「あのぉー。」


後ろから聞こえるその声は消え入りそうだった。


「と、とりあえず、何か食べるものか飲み物が欲しいんですけど…」


その声はか細く、今にも気を失いそうなほど顔が青白かった。


体は小刻みに震えている。


はっとしたレン、すぐさまその青年を抱き上げた。


お姫様抱っこだ。


「…え?」


その状況はおそらく、自分でなくてもパニクるだろう。


そう思った青年であった。


レンはそのまま全速力で村長宅を飛び出し、自宅へと急いだ。


「すまねぇすまねぇ。あんたはショウを助けてくれたんだったな!本来ならガンさんがもてなすべきだけど…まあいいや!話もしてくれるって言ってたし!」


一人で早口言葉のごとくつらつら言い流したレンの足は、全く衰えることなく走り続けた。


その間レンの顔は終始微笑み、ブツブツなにかを呟いていた。


ーヤベェやつじゃん。え?え?これやばない?知らない場所で知らないやばい奴と知らないやばい事されない?怖い怖い!!ー


青年はそう思いながら、身体を動かそうと努力してみる。


しかし、動かない。力が出ない。脱力感が凄まじい。


ー貧血って辛いなぁー


レンが青年を抱き上げてから実に約10分後。


レンの足はようやく止まった。


ー息ひとつ乱してねぇぞこいつー


あれだけ長いこと全力疾走し、加えて大の男1人を抱えてた。それなのにレンは息を切らしていなかった。


ーどーなってんだこいつの体はー


そこは村から少し離れた丘の様な場所で、綺麗な芝生があたり一面びっしり生えていた。


空が広い。満点の星空だ。とても近くに感じた。大きな衛星?も沢山ある。漫画やアニメを見ているようだった。


「夢…だよな?」


目の前のありえない光景に、青年は呟いた。

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