Ep4:「星人(ホシビト)」
丘の頂上にポツンと一軒家。
そんなに大きくはないが、小さくもない。素朴な外観をしている。
「ここが俺ん家だ!広かぁないけどゆっくりできると思う!」
そう言って中に入っていく。
一言で言うと[懐かしい]
どこにでもあるようなおばあちゃんの家の匂いや内装、とかではなく、なんとなく懐かしい。
その感情がどこから来るものなのか青年自身にも分からなかった。
そのままレンは青年を布団の敷かれた床にゆっくりと置き、部屋の奥の方に消えていった。
「えぇ。」
ーせめてどこにいくかとか、何しにいくかとか、言って欲しい。本当に何もわからない状況なにー
何分経っただろうか。
人は暇な時間に限って時間が長く感じてしまうものだ。
つまりは主観なのかもしれないけど…30分は経った。
そして気づいた。いや気づいていた。
ーなんか外から変な音する!ー
ジュルジュル。バキバキっ。ポキン。フゥう。ザブンザブン。にちょぉ。ぷるぷる。
ねっとぉり。ザーザー。ファンファン。ほーほー。ボリボリ。バリバリ。ベリベリ。ビリビリ。ブリブリ。ハハッ!。
「いたよね。いまいたよね。著作権的にやばい奴いたよね!?」
青年は本日二度目のパニックに陥っていた。
「だ。誰かぁ?!いませんかぁ??!だれかぁ!」
恐ろしくなった青年はたまらず声を出した。
「ど、どうしたっ!!?」
すぐさま部屋の奥からレンが飛び出してきた。
「あ、あんたなぁ!!どこに行ってたんだよぉ!」
「え??奥で君のためにご飯作ってたんだが・・・・」
「え?」
「え?」
変な間が流れる。
「飯?」
「飯。」
「あんたが?」
「俺が。」
「おいしい?」
「おいしい。」
「料理を?」
「料理を。」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
なんとも言い難い間。あまり面識のない目の前の人間との話のかみ合わなさ・・・
「あ。そう。いやそれより、さぁ・・・こ、この音なんだ??変な音が外から聞こえるんだが」
「え・・・あ、あぁそれね、不快な音に聞こえる??」
「不快な音に聞こえるかって??不快も不快!!ねちょねちょしたり骨が折れるような音がしたり笑い声だったり不快を通り越して怖い」
「不思議な音が聞こえてるんだな。」
すごい笑顔でそう答えるレン。
「??なんだよその言い方。まるで人によって聞こえる音が変わるみたいじゃないか。」
「その通り!その声の主は”キクヒトニヨッテキコエルオトガチガウドリ”さ!!」
レンは大きく両手を広げそう答えた。
「・・・・は?」
「”キクヒトニヨッテキコエルオトガチガウドリ”!聞く人によって聞こえる音が違うんだ。気分が高揚しているときは気分がよくなるような音が聞こえてきたり逆に君みたいに不安だったりするとさらに不安を煽るような音が聞こえてくるんだ。」
こいつは俺を馬鹿にしてるのか??そう思わずにはいられない青年。
「・・・真面目に言ってる?」
疑わしさを全力で目に込める。
「?真面目だよ?そんなに珍しい生き物でもないと思うんだけど。。。。あ、そうか君はこの島の出身じゃないのか。」
ーこいつ。。。冗談がうまいのかそれとも本気なのか…んん??まてまてー
引っかかる言葉が一つ。
「島??!ここは島なのか!!?」
自分が住んでいた地域は本州の方だし近くに島あれど人は住んでいない小さな島がほとんどだ。
その島…って可能性もあるが…
「そう!絶海の孤島!!ソーン島さ。まぁ島って言ってもかなりでかいんだけどな。いったことないけど、ショウの話じゃ端から端まで全速力でも1週間くらいかかるって言ってたな。」
「ソーン島・・・?聞いたことない。それにさっきの鳥も・・・・な、なぁここって日本・・・だよなぁ??」
ついに一番気になることを聞いてみる。
「そうだよ」と言って欲しいだけで質問の本質は"念のための確認"だった。
しかし。
「なんだそれ。なぁなぁ!!やっぱりお前ってこの島の外から来たのかっ!?なぁ!」
顔から血の気が一気に引いていく。
生唾を飲み込む。
「日本って国なんだが、聞いたこと…ないか…?」
恐る恐る聞いてみる。
ここでも先程と同じく、質問の本質は違っていた。
「ニホン?聞いたことないなぁ…んー。アリーシア帝国とかの方かなぁ。それとも…頭でも打ったか??」
悪気はないのだろう。少し場を盛り上げるためのからかいなのだろう。
しかし青年にとっては全くの逆効果だった。
「ここは…。じ、じゃあなんで日本語喋ってんだよ。からかってんのか…?俺を!」
すでに冷静ではいられない青年はレンに掴みかかり怒鳴るようにそう聞いた。
「う、うわっ。やめろ、やめろって!おい!!…い、いい加減に、うわっ。っ!いい加減にしろっ!!!」
ものすごい勢いでで振り払われる青年。
その勢いで後ろの壁に強い勢いで打ち付けられる。
「ぐっ、ぅあ…」
咄嗟とはいえ結構な力で振り払ってしまったことを後悔しているレンが、すぐさま駆け寄ってくる。
「す、すまん!お前が凄い力で揺さぶるからつい…」
「ま、まてまて…お前の見た目からしても常識で考えてもおかしいだろっ!振りほどく行為だけでなんで大の大人が10メートル近く飛ばされなきゃなんないんだよ!」
青年の言う通り、青年が寝ていた場所から、激突した壁までは、おおよそ10メートルは有るだろう廊下を挟んでいた。
それにつけても物凄い衝撃。壁がなければさらに飛ばされていただろう。
「漫画かよ…」
そう言わずにはいられなかった。
「そう言われてもなぁ…普通だぞ?お前できないのか?結構いい体つきしてるのに。」
「…んーほら!あれはどうだ?小さい頃やらなかったか?岩山トンネル掘り対決とか!」
は?何行ってんだこいつ。
「岩山トンネル?まさかとは思うけど素手でやんのか…??」
「当たり前だろ!知らないの??やっぱり島の外からきたのか??」
やはりおかしい。ここが絶海の孤島ということや日本を知らないこと。
それなのに日本語を話すこと。外海の情報が全くないこと。魔法を使うこと…
「ば、馬鹿馬鹿しい。絶海の孤島?魔法?勘弁してくれよ。厨ニ病かよ。異世界転生やってるわけじゃねぇん…だ…か」
その言葉が口から出た瞬間から一つ。確信に近い疑惑が生まれる。
「い、異世界…やや、ないだろう。魔法使えるってことなんかよりない。ないない。冷静になれ。」
「なーに行ってんだお前ブツブツと。」
しかし、冷静になればなる程、ここが異世界と仮定した時に、今までのことに辻褄があってくる。
いやそもそも異世界とは勝手が良い言葉であって辻褄が合う合わないの話ではないのだが…
核心を突こう・・・
「ここは地球か・・・?」
そう問いかける。
「チキュウ??なんだそれ。ニホンみたいな地名か???」
淡い期待は絶望へと変わる。
”異世界”
ここを異世界と呼んでいいのかわからないが、俺がいた地球という名の惑星、日本という名の国。
その世界で無いことは確かだ。
違う惑星?いやここに住んでいる人たちは日本語をしゃべっている。
やはり違う世界と考えるのが一番しっくりくる。
甘かった。考えが甘かった。子供のころのミルクと砂糖を際限なく入れたコーヒーくらい甘かった。
あの世界ではアニメやラノベが流行っていて、よく異世界に転生していたものだ。
その物語の主人公は一様に、皆あの世界に嫌気がさしていたり、いじめられていたり。
そうでない者もいたが、異世界に転送した際、あの世界への未練はさほど無いようで、楽しく優雅に神様からもらった特殊な能力を存分に使い暮らしていた。
その後もあの世界のことなどなかったかのように過ごす主人公たちを何人か知っている。
何にも縛られず、すさまじい力を使い、イージーゲームのような世界を過ごしていればそのようになるだろうか。
まさに漠然と、そのような考えを持っていた。
甘かった。パイナップルの砂糖漬けにはちみつをかけて食べるよりも甘かった。
確かに、毎日やりたくもない勉強を強制させられ、部活に励み、顧問に怒鳴られ、へとへとになりながら家に帰る。
無意味な自転車通学の規制、毎週土曜日の午前中の模試。
そして高校を卒業すればまた勉強付けの毎日。そう大学生活。
その後は人生の牢獄と言われる就職。
朝から晩まで働き、休みは土日だけ。年末年始や夏休みもたかだか1週間程度。
そしてもらえる給料は雀の涙。
そんなきつい生活を強いられ、それほど広くない自宅に3~5分の一程度の給料を持っていかれる。
自分が使えるお金なんてない。
子供は早く大人になりたいという。大人は子供のころに戻りたいという。
その中間の高校生は行き場がない。
昔に戻ってもまた勉強付け。自分のためのお金はないし、先述したように大人になることを考えれば考えるほど憂鬱で仕方ない。
憂鬱だ。憂鬱なんだ。けど。。。
「ここは・・・異世界。。。異世界なんだ。戻る、戻る方法は・・・」
実際にその場の当事者となった今、その考えが甘かったのだと実感させられる。
ついこの間食べたインドネシアらへんにある世界一甘いお菓子より甘かった。
この世界の住人と意思疎通ができることが唯一の救いか。
あの世界に戻る方法が見つかるかもしれない。
俺は今、憂鬱で仕方ないあの世界へと帰りたい。たとえその後の生活で厳しく苦しい生活が待っていようとも帰りたい。
友達に、彼女に、家族に。会いたい。
いなくなって初めてその存在の大切さを実感できる。
まさにその通りじゃないか。
今、俺は猛烈に帰りたがっているんだ。
「な、なぁ。大丈夫か?君は他の国とかこの島の外から来たんじゃないのか?ーまさか、”星人”・・・?」
心配そうに尋ねるレンの口から新たなワードが出てくる。
「ホシビト?星人ってなんだ?」
素直な質問を投げかけてみる。
星人なるものが異世界転生に関しての何かしらの情報を持っているかもしれない。
「星人っていうのはな。昔本で見たんだ。なんでもこことは少し違った世界からくる特殊な人のことを総じてそう呼ぶ。。。みたいな」
ビンゴ!
「なぁ!その本ってどこにあるんだ?!」
「本?あぁ。かなり昔だからなぁ。。。まぁある場所はわかるけど。。。ほんとは見ちゃいけない本なんだよ。」
おどおどしながら答えるレン。
「い、いやこの際だぞ!俺は・・・そう”星人”だ!!」
青年は思いついたようにそう答える。
「え、えぇ!!ほんとに星人なの??まじ??!」
本気で聞いてくるレンに少し戸惑う。元来俺は人を騙したりするのが苦手なんだ。
しかし、ここで引くわけにはいかない。俺は帰りたいんだ。それに俺が星人だという可能性だってある。いやむしろ今の話から俺は星人と確信を持って言える。
「あ、あぁ。俺は星人だ。こことは違う別の世界から来た。」
「まじかまじか!とうとうこんな不思議なことが!やっぱりこの世も捨てたもんじゃないなぁ!」
目をキラキラ輝かせレンはそういった。
「んで。本はどこにあるんだよ?」
「あぁ。本ね!実はさ。覚えてないんだ…ある場所はわかるんだけど…それに見たってことがショウやガンさんにバレると…ウォッエっ。あー怖くなってきた。」
「まてまて。ある場所はわかるんだな?ショウ…とかガンっていうことは、もしかしてさっきの家にあるのか??本が。」
びくっと肩を震わせ冷や汗をかきながらレンは答えた。
「えぇっ!なんでわかったんだ…??頼む!これだけは言わないでくれ!本を見ることは掟で禁じられているんだよぉ~!」
またもやレンはしがみついてきた。
「掟、掟ってそんなに掟にしがみついてて恥ずかしくないのか?俺と同い年くらいだろ?自分で考えて自分で行動しろよな。」
そう青年が言うと
「グサっ」
とレンが口にだして言った。
「グサって…」
「わかった。わかったよ。でも今日は遅い。
夜暗い中またあの道を行かないといけないし、ショウが多分起きてない。なんなら明日以降もショウが起きないと何もできないなぁ。」
「また掟か?掟があるからショウが起きてないといけないのか?」
心に何か刺さったレンが何かを決心したかのように見えたのだが、
すぐさままた弱音を吐くレンに少しがっかりしていた。
「違う違う。それはどうしようもないんだ。
この村の村長は世襲制で、儀式を通して村長になるんだけど」
レンは村長とは何かを話し始めた。
「そもそも村長ってのはこの村を作られた第1代村長からずっと続いてて、ショウで13代目なんだ。」
「みんな血縁で基本的には自分の子供を次の村長にすべく、儀式を行うんだ。」
「で、さっきの本に関してはあの屋敷の地下の本棚にあるんだ。でもその扉が厄介なんだ。」
「さっき行った儀式っていうのはね、ただ、"今からはお前が村長だ。村のみんなに挨拶してきなさい。"ってものじゃないんだ。もっと深いところにあって魔法が絡んでる。」
-また魔法か…なるほど、つまりおそらく、件の扉ってのが村長の力で…-
「そんでそんで、その扉っていうのは封印されてて、村長の力を正式に継承した人物だけが開けることができるんだ。前入った時はショウのお父さんが開けて閉め忘れたところを見逃さなかった!」
「正直ショウのお父さんは稀に見るハイレベルな天然な人だったから」
笑いながらそう言うレンの顔は少し赤くなっていた。
-まあ概ね思った通り。つまりその本を見るには、十中八九ショウとやらの許可が必要だ。
このタイミングでショウが本棚への扉を開いて、扉の封印をし忘れる…ことは考えにくい。
俺はおそらく、星人だから話を通せばまあ開けてくれると踏んでるが…
先ほどのあの様子から明日ないし明後日に、
なぁ。本見せてくれないか?
なんて言えない。せめて全快になるまで待つべきだ。それがマナーだ。-
「そうか。そうだよな。わかった。明日にでも見たいが、ショウが起きてようが起きていまいが病み上がりには不躾だな。」
「じゃあレン…だっけ?俺にさ。この島とか村を案内してくれよ!異世界…と信じたくないけど、魔法ってのがあるなら教えて欲しいし、この世界の生き物や色々教えてくれよ!」
先程までのどんよりとした暗い世界に一瞬だけ、希望の光が入ることで世界は一変した。
早く元の世界に帰りたい。変える方法を知りたいと言う欲望は抑えられ、どうせならこの世界にいる間に楽しんでしまおう!と、別の欲望が顔を出した。
するとどうだろう。
キクヒトニヨッテキコエルオトガチガウドリの不気味な音が変わり始めたではないか。
キラキラぴよぴよわんわんにゃんにゃんハハッハハッピカピカ
すごい!こんなに違って聞こえるんだ!。。。ん?
今はっきりと笑い声が聞こえた。さっきまで聞こえた笑い声とは少し違う・・・?いや同じだろ。
ま、まぁやっぱりこんな状況じゃ心の奥底では少し暗い部が見え隠れしてもおかしくないか。やっぱりまだ少し戸惑っていたりするんだろうな。
「よし!」
大きく手を広げほほを一発叩く。気合を入れる。
「そうと決まればまずは・・・俺を知ろう!」
-そう。この場合十中八九自分には特殊な力があるはずだ。異世界転生では常識だな。
あ、いや。最近は平凡、ないしは非凡な能力で異世界転生するギャグチックなものもあったっけか。
学校で流行ってるとはいえ、ミーハー嫌いな俺はあんまり知らないなぁ…-
青年の住んでいた世界では異世界転生で最強になるだのモテモテになるだの、都合の良いリセット案件が豊富にあった。
現に異世界転生ものを見ている大半が人生のリセット願望が強い30代や40代という調査結果が出ているとかいないとか…
自分の今の現状やこれからのことがもしかしたら、地球上でお話となり同じような物語として語り継がれる日が来るかも知れない。
そんな時同じようなリセット願望が強い人たちが見るのかなぁなどと心の奥底で考えていた青年であった。
兎にも角にも、自分がこの世界でどのような役割なのか。どんな力を持っているのか。すぐにでも確認したい気持ちでいっぱいだった。
「なぁ。レン!教えてくれよ!色々とさ!」
欲に素直に聞いていた。
「ま、まてまて。もう夜も遅いし、外は危険だ!夜は魔物も活発になるし、単純に暗すぎてなにもできないよ!」
レンは答えるが青年は引かない。
「なんだよ。光の魔法とかあんだろ!さぁ!いく…ぞ。あれ…」
すると青年はガクッと膝から落ちた。
「ほ、ほら!疲れてるんだ。ご飯も作ってるから、さぁ!一緒に食べてたくさん寝て。明日からやろうよ!」
自分としてはまだいける…と思ってはいたが、レンの言うことはまったくもって間違っていない。
ここは折れるべきだ。お腹も空いた。
「し、仕方ない。じゃあまずはご飯を食べさせてくれ…お腹すいた…」
そして青年はレンに連れられ居間へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます