第1話 雨の日

 中学二年になった春も過ぎ、梅雨も終わりに近づく頃、キミは僕の家の扉の前で埋まっていた。

 夏が始まったばかりというのに、キミはひどく震えていて、体はずぶ濡れだった。

 雨が降る中僕は心配して傘をさし、キミに近寄って声をかけた。

「どうしたの? 何かあったの?」

「昨日、人を殺したんだ」

 そっと呟いたキミは強張った顔をしていて、一瞬、言葉を疑ったけれどそれが真実だと悟った。

 体育座りで蹲るキミは震えるばかり、ここから動く気配すらなかった。

 キミはそのまま話を続けた。

「殺したのは、隣の席の、いつも虐めてくるアイツ。もう嫌になって、肩を……突き飛ばして……打ち所が悪かったんだ」

 アイツはいつもキミを虐めていた、それは僕も知っている。

 先生も皆んなも、見ないふりをして放って置いた。

 僕は言い返えそうとけれど、キミはそんな僕を止めたんだ。

 無理をした苦笑いを浮かべ、君に危害が加わっては申し訳ないと言って。

「もうここにはいられないと思うし……どっか、遠いとこで死んでくるよ……」

 蹲っていたキミは絶望した暗い顔ですっと立ち上がり、この場から去ろうとした。

 そんなキミに僕は言った。

「それじゃ、僕も連れてって!」

 驚いたキミは目を丸くして、少し俯いた後僕に微笑んでくれた。

 キミを一人にさせたくない。

 そんな僕の思いはキミに届いたと思っていた。

「ちょっと待って!」

 僕はダッシュで家に入り、自分の部屋から様々なものをリュックに詰めて戻って来た。

 財布とナイフ、携帯ゲームもカバンに詰めて、いらないものは全部壊して来た。

 キミととった写真も、毎日つけていた日記も、今となっちゃもういらない。

 母さんも父さんも今は仕事で家にいない。

 誰もいない家に別れを告げて、僕らは旅立った。

 人殺しとキミを思うばかりのダメ人間の、キミと僕の旅が今始まった。

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