エピローグ3
朝のファミレス。
薫はスクランブルエッグをフォークですくい取っている。
「ねえ、お墓参りとか行かないの」
ケチャップが口につくのを気にしながら薫は隆にきいた。
「そう言えば、しばらく行ってないね」
「薫ちゃんは」
「お墓がどこにあるかも知らないんだ」
「そうなの」隆は驚いたふりをして、チーズを挟んだトーストをかじり、コーヒーで流し込んだ。
エアコンの効いた店内は、昨日ランチをとった海辺のテラスとは違ったダルな雰囲気につつまれている。
これが自分がずっと慣れ親しんできた都会の空気なのだろうかと隆は思った。
「なんかいいよね。この感じ」
薫がつぶやくように言う。
ほんのつかの間の休息。薫はそう感じていた。でも今までは、そんなつかの間の休息さえなかった。結局二人ともここから離れられない。自分もあんな目をしているのだろうか。隆の眠そうな目を見ながら薫はそう思った。
「これから何しようか」薫が隆にきいた。
「そうだね、もう一杯コーヒー飲みたいね」
「あたしはオレンジジュースにしようかな」
そう言って薫が席を立った。
きっとあの人も、ぼくたちと同じようにここに戻ってくるのだろう。隆はそう思いながらカップに残ったコーヒーを飲みほした。
そして、思い出が消えてしまいそうなくらい、遠くに離れていくのを感じていた。
「残っててもいいじゃない」
薫の声が聞こえたような気がした。
街色の海と海色の街 阿紋 @amon-1968
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