3-13

「いいよね、この感じ」

 薫と隆は海辺にあるホテルのテラスで昼食をとっている。

「ほんの少し走っただけで、全然景色が違うんだね」

「ここはリゾートだから。温泉もあるみたいだよ。帰りに足湯に入っていこうか」

 薫はそう言いながら隆の食べているパスタを見ている。

「あたしも、ペスカトーレにすればよかったかな」

「カルボナーラもおいしそうじゃない」

「そうなんだけど。やっぱり海の近くだし」

「それじゃ交換する。半分食べちゃったけど」

「そうしよう」

 そう言うと薫は自分の皿と隆の皿を交換した。

 日差しは強いものの、ゆったりとした午後の空気が二人をつつんでいた。

 そして、時おり海から吹く風が気持ちよかった。

「ねえ本当にこのまま帰るの」隆が薫にきいた。

「足湯に入ってからね」

「あいつに会いに来たんじゃないの」

「そうだけど、もういいかなって。居場所もわかったし。ちゃんとやってるみたいだから」

「意外だったね。世捨て人みたいにしてるかと思ったけど」

 薫はアイスティーを一口すすった。隆はまだパスタを食べている。

「ヒロさん多分捨てたんだよ」薫がポツリと言った。

「今までのヒロさんを」

「じゃ、僕らも捨てられちゃった」

「そうかもしれない。でも、もしかすると今までのヒロさんにまだへばりついてるのかもね。あたしたちが」

「捨てられないか」

 あいつだけじゃない。夢見さんも捨てられないでいる。隆はそう思った。

「いいじゃない、このままで」

「そうかもしれないね」

 隆は薫の表情がいつになく優しくなっているのに気づいた。

「足湯楽しみだね」薫が隆に言った。

「その前にゆっくりコーヒー飲んでから」

「そうだね、場所変えて」

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