3-12

「ヒロ兄ちゃんがさっきのお姉ちゃんともどってきた」

 ケンタが店の中に入ってきてそう言った。

「お姉ちゃんだけ」

「お姉ちゃんだけだよ」

 ケンタの後に店に入ってきたサキがそう答える。

 さっきの二人連れじゃないんだ。映美はそう思って駐車場のほうに目をやると、楽しそうに話しながら寛太郎と霞が歩いている。

「映美ねえさん戻ってきちゃった」

 明るい声で霞が店に入ってきた。

「二人知り合いだったの」

「あたしの最初のファンなの」

 そう言って霞は寛太郎の腕をつかんだ。

「でも、会ったのって二回だけだよね」

「それでも特別なの。寛太郎さんがいなかったら、あたし歌うのやめてたかもしれない」

「歌うって」

 映美は霞が何を言ってるのかよくわからなかった。

「霞ちゃん、ストリートで歌ってるんです。ギター弾きながら」

 寛太郎が説明する。

「歌ってても誰も聴いてくれなくて。はじめて立ち止まって聴いてくれた人が寛太郎さんなの」

「そうなんだ。カスミがねえ。この子そんなタイプじゃなかったから」

 霞の笑顔につられていつのまにか映美も笑顔になっている。

「そんなタイプって」

 寛太郎が映美にきいた。

「どっちかっていうと、人見知りするタイプ」

「二人仲がいいんですね」

「映美さんはあたしのお姉ちゃんなの」

「カスミは一人でおじいちゃんに預けられてたから」

「それよりカスミ、民宿に戻らなくていいの」

「いいの。お姉ちゃんは一人になりたいみたいだから」

「カスミは実のお姉さんと一緒におじいちゃんのところに来てるの」

 映美は少し混乱している寛太郎の様子を見てそう言った。

「おねえちゃんいっぱいだね」

 店の中にいたケンタが言った。

「あたしもおねえちゃんほしい」とサキが言う。

「サキにはお兄ちゃんがいるからいいんだよ」

 ケンタがサキの手をつかんでそう言った。

「お兄ちゃんがいるからいいか」

 二人は手をつないだまま店の外に出ていった。

「ねえ、民宿って三郎さんの」

「そう、三郎さんは霞の叔父さんなの」

「霞、さっきのトウモロコシ茹でるの手伝って。ヒロ君はお店のほうお願い」

 映美は事務室から取ってきたユニフォームを寛太郎に渡した。

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