3-9

「本当に見たの」

「多分。さっきの道の奥のほうに」

「他人の空似じゃないの。隆くんには前科があるからなあ」

 隆と薫を乗せた車は海沿いの道路の路肩に駐車していた。

 助手席に乗っていた隆が由貴を見たという。運転していた薫には細い脇道の奥は見えなかった。

「どうする。戻ってみる」

「そうしてよ」

 薫は車をUターンさせて来た道を戻ると、隆が由貴を見たという脇道のところで車を止めた。

「誰もいないじゃない」

 薫が車の中から脇道をのぞきながら言った。

「いたんだよ。二人連れで」

「二人連れ」

「そうもう一人、女の人と」

「その人若かった」

「そんな感じ」

「もしかすると、妹さんかなあ」

 薫は少し考え込んで車を降りると、つぶやくように言った。

「やっぱり海のそばは気持ちいいね。ごちゃごちゃした都会にくらべると」

「そうだね。でもあのごちゃごちゃした場所にも、ごちゃごちゃした魅力がある」

 隆も車を降りて薫のとなりに立っていた。

「ねえ、少し行ってみる」薫はそう言って、道路を渡って脇道に入っていく。隆もその後につづいた。ブロック塀の先に民宿の看板が見えた。

「民宿があるんだね。行ってきいてみる」

「いいよ。人違いかもしれないし」

「そうだね、あたしたち由貴さんを捜しに来たわけじゃないし」

「いるわけないよね。本当にいたらすごい偶然」

「それより、マスターが言ってたコンビニってこの辺だよね」

「近くにコンビニがあるかだけでも聞いてみようか」

 薫はそう言って民宿のほうに歩いて行く。

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