3-8
「そうなの、千草ちゃんは高級クラブで働いているの」
「なかなか堂に入ったもんだよ」
「行ったこともないくせに」
「昨日の様子見てりゃわかるさ」
「それで、霞ちゃんはお仕事何してるの」
「事務員です」
霞はあまり自分の仕事のことは話したくなかった。
「どうせ小さい会社だろう。そんな会社にいるなら、こっちに帰って来いよ」
「また、その話」と霞は言ったものの、それも悪くないと思いはじめていた。
「霞ちゃん歌手になるんでしょ」
「たまに歌っているけど、そんなつもりはないです」
「ねえ霞ちゃん。おばさん霞ちゃんの歌、聴いてみたいな」
「ギター持ってないから、今日は」
「ギターだったら、多分ここにあるよ。この人もね、フォーク歌手になりたくて家出したことがあるみたいで」
「おじさん、そうなの」千草が言った。
「昔の話だよ」
「とにかく、霞ちゃんにも夢があるんだから、無理言っちゃ駄目。あなたが一番わかってるはずじゃない」
あたしに本当に夢なんてあるのだろうか。霞はそう思った。霞にギターを教えてくれたのはサブおじさんだった。
この町に来て塞ぎがちだった霞を気遣ってギターを弾いてくれた。そしてたくさんの歌を教えてもらった。
千草は民宿の二階で海を眺めている。
「海っていいよね」
二階に上がってきた霞に気づいて千草が言った。
「こうして見ているだけで、心がなごんでくる」
「お姉ちゃん、ずっとここにいたいと思う」
「いれたらいいね」
「コンビニに行くけど、お姉ちゃんも一緒に行く」
「あたしはいい。もう少しここにいる」
「じゃあ、あたし行ってくる。何か欲しいものある」
「特にないかな」
「映美ちゃんのところに行くのかい」
霞が下に降りると三郎が霞に声をかけた。
「うん、行ってくる」
「それじゃ、これ持って行ってくれよ」
三郎はビニール袋に入ったトウモロコシを霞に渡した。
「おじさん、トウモロコシ作ってるの」
「少しだけど。子どもたち好きみたいだから」
映美ねえさんに早く会いたい。霞はビニール袋を下げてコンビニに急いだ。
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