3-6
「本当にいなくなっちゃったの」
薫は少し驚いた様子で、隆に聞き返した。
「カギが閉まっててね。引越ししたみたいだって、アパートの人が言ってた」
「その人もはっきりわからないみたいだったから、裏に回って窓をのぞいたら簾がなくなってて」
「すだれ」
「そう、あいつ窓に簾を下げてたんだ」
「そうだったかな」
薫は寛太郎の部屋に簾が掛かっていたか思い出している。たしかに外が明るくなってきたとき、窓に簾が掛かっていたような気がした。
「でも何で。また来るって言ったのに」
薫が小さくつぶやく。
隆はグラスの中の氷をじっと見ている。薫はほとんど化粧をしていなかった。ジーンズにTシャツ。サラリと伸びた長い髪を無造作におろしている。以前とは別人のよう。でも、今の薫のほうが隆は好きだった。
多分生きていたら夢見さんもこんな感じなのかなと思った。
「おかわりつくる」
薫が隆にきいた。
「おねがい。それにチェイサーも」
店の中には七〇年代のロックが流れている。
「マスターの好みなの」
「あいつだったら、ここでかかっている曲みんな知ってるんだろうな」
「ヒロさんとマスター、絶対気が合うと思う」
マスターは奥のカウンターで三〇代くらいの女性客二人と話し込んでいる。
ほかに客はいない。
「ここはカラオケがないから、こうして飲むにはいい雰囲気でしょ」
「たまにマスターの友だちがライブやるの」
「そうなんだ」
隆はサイコロ状に切られたハムステーキを口の中に入れた。
「おいしいでしょう。いいハム使ってるみたいだよ。マスターのこだわり」
そう言って薫はハムステーキをひとつ素手でつまんで口の中に入れた。
「ねえ、今度行ってみようよ。ヒロさんが行ってた海辺の町。もしかしたらそこに戻ってるかもしれないし」
「可能性は高いけど、あいつ詳しいこと教えてくれなかったし」
「マスターが心当たりあるみたい」
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