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千草と霞がこの町に来た次の日の朝、二人は祖父といっしょに両親の墓前で手を合わせていた。ここの朝は都会にくらべると過ごしやすいと千草は思った。空気がひんやりとしている。
二人の両親の墓は祖父の家からさらに奥に入った高台にあって、遠くまで見渡すことができる。
「あの岬の向こうが海水浴場。お姉ちゃん覚えてる」
「温泉もあるんだよね」
「そう」
両親の納骨の日は、冬のどんよりと曇った日で寒かったことぐらいしか覚えていない。覚えている景色は子どもの頃の記憶なのだろうと千草は思った。
「お位牌持ってくればよかったね。あたしが預かってるけど、部屋には仏壇もないし、おばあちゃんと一緒のほうがいいものね」
「あたしも何でないのか不思議だった。お姉ちゃんが持ってたんだ」
「また、来ればいいさ。おじいちゃんはいつでも待ってるから」
「おじいちゃん、この花は」
「それは多分、サブのところの洋子さんだろう」
「洋子おばさん」
「昨日は来てなかったでしょう」千草が霞にきく。
「サブおじさんのところは、民宿やってるから」
「ねえ、これから洋子おばさんに会いに行こう。それから、コンビニも。おじさんの民宿からすぐだから」
「そうだね、昨日の料理のお礼も言わないと」
霞には会いたい人がもう一人いた。祖父の家に戻ると三郎が来ていた。
「昨日のお皿取りにきたよ」
「ちょっと待っててください。取ってきます」
そう言って千草は家の中に入っていく。
「ちゃんと洗ってあるからね、おじさん」霞が言う。
「千草ちゃんがだろう」
「あたしもお手伝いしたよ」
「おじさん、あたしたちも乗せてってよ。おばさんに挨拶したいし、コンビニにも行きたいから」
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