2-9

「本当に元気そうだね」寛太郎が目を覚ますと、目の前で薫が正座をしていた。外はすっかり明るくなっている。

「今何時」

「何時だろう、あたしもわからない」

「いつからここにいたの」

「ゆうべから」

「ずっと正座して」

「そうかなあ、多分」

「カギ開いてたよ。盗まれるものはなさそうだけど」

 そう言いながら薫は部屋の中を見ている。

 そう言えばここに帰ってきてから、ずっと部屋のカギは閉めてなかった。

「ほとんど処分したから」

 薫は以前この部屋がどんなだったかを思い出せずにいた。

「隆くん来た」

「一度だけ」

「そうなんだ」

「ギター捨てちゃったの」

「ギターって」薫が立ち上がって背伸びをする。

「多分あると思うけど。どっかに」

「ストリートライブやらないんだ」

「やらないって言ったじゃない」

 薫は何かを捜すように部屋の中を歩き回っている。

「そうだっけ」

「何やってるの」

 薫は体をくねくねと動かしはじめた。

「体操。ずっと正座してたから。体が固まっちゃったみたい」

「見に行ってみる。ストリートライブ」

「いいよ別に。ヒロさんがやらないなら」

 そう言って薫はドアのほうに歩いていく。

「帰るね。お腹すいちゃったし」

「ファミレス行こうか」

「ダメ。食べたら寝ちゃいそう。部屋に帰ってから食べる」

 寛太郎も立ち上がってドアのほうに歩きだす。

「来る、あたしの部屋」

「コンビニまで。考えてみたらもう食べるものがないから」

「今度は何か食べ物持ってくるね」

 そう言うと薫は寛太郎の前でドアをぴしゃりと閉めた。

「来てくれないんだ。あたしの部屋」

 寛太郎はしばらく閉められたドアの前に立っていた。

 結局何ひとつ変わっていない。寛太郎はそう思った。

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