2-6

 いったい自分って何なんだろう。薫はぼんやりと考えている。そろそろ夜が明けようとしていた。

「寒いなあ」ぽつりとつぶやく。

 薫が感じていた不安が現実になろうとしている。何ともやりきれない疎外感。あんなに飲んだはずのお酒もすっかり醒めてしまった。

 人の話を聞いてあげることが自分の仕事だけれど、誰にも自分の話は聞いてもらえない。いつから自分はこんな風になってしまったんだろう。

 ちょっとした小遣い稼ぎのつもりではじめたこの仕事も、すっかり自分に染み込んでしまっている。ちょっとした事情があったにせよ、今では高級クラブのホステス。

「あたしも逃げ出したい」

 自分と世界を遮断する。寛太郎の言っていたことの意味がようやく分かったような気がした。でも本当にそれでいいのだろうか。薫は自分に問いかけている。

 自分はそれを望んでいない。だから疎外感を感じているのに。

「ねえ、会わせたい人がいるの」由貴が薫に耳打ちした。

 お店が終わって薫は由貴と一緒にタクシーに乗った。

「どこに行くんですか」

「あたしの部屋」

 そう言って由貴は意味ありげに微笑んだ。

 あの時見た由貴と隆の明るい笑顔が忘れられない。

「夢見さんはぼくの中でちゃんと生きている」

「薫ちゃんありがとう。由貴さんに会えて本当に良かった」

 別にあたしが会わせたんじゃない。薫は心の中でつぶやいた。

「ヒロさん帰ってるの」

 隆は寛太郎の部屋に訪ねていった時の話を楽しそうに話している。

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