2-5

「あきらめて帰ろうと思ったとき、あなたが前から歩いてきた」

「仕事は大丈夫なんですか」

「大丈夫、あなたの友だちがうまくやってくれてるから」

 由貴と隆はファミレスで向かい合ってすわっている。

「あたしって、その人に似てるの」

「何となく」

 隆は嘘をついた。こうして会ってみると、由貴さんと夢見さんの共通点を探すほうが難しかった。

「ごめんなさい」

 そう言って由貴はバッグから携帯電話を取り出した。

「妹からのメール。日曜日はいつもストリートで歌ってるの」

 さっきトイレから戻ってきたときに、由貴がメールをしていたことを隆は思い出した。

「今日も沢山聴きに来てくれたみたい」

 由貴は嬉しそうに携帯電話の画面をながめている。そして返信のメールを打っているようだった。そんな由貴を見ていると隆も何だか嬉しい気持ちになった。

「でもね、最初は全然だめだったの。誰も聴いてくれなかったみたい。少し人が集まってきたと思ったら、ストーカーされたりして」

「ストーカー」

「でも、大丈夫。あたしがおどかして追い払ったから」

「本当に」

「本当よ」

「そう言えば、ぼくの友だちも昔ストリートに立ってたんだ。そいつ急に会社を辞めて、海辺の町に行ってたみたい。最近戻ってきたみたいで、さっきまでそいつのところにいたんだ」

「びっくりするぐらい元気になってて」

「そうなんだ」

 そう言いながら由貴は嬉しそうな隆の顔を見ている。

 デミグラスソースのかかっているオムライスが二人のテーブルに運ばれてきた。

「あたしオムライス好きなの」

 夢見さんも由貴も隆を楽しい気分にしてくれる。

 でも夢見さんは夢見さん。由貴は由貴。

 それでいいんだろうと隆は思った。

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