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どんよりとした雲におおわれた日曜日。霞の前にはいつものように人だかりができている。
ここに立ちはじめて約半年。はじめは誰も見向きもしなかったけれど、少しずつ人が集まりはじめ、今では霞の歌を聴くために多くの人が集まるようになった。
何曲か歌い終わった後、後ろのほうを見るとこの場所で霞に初めて声をかけてくれた人を見つけた。あの人に会ったのはあの時たった一度だけ。でも、あの人のおかげでここまで頑張ることができた。
ギターを片づけながら、霞はまだあの人がいるのか確かめたかった。でも、いつも来てくれているファンの人たちに囲まれて気持ちばかりが焦っている。この人たちも大切にしなくちゃいけない。
待っていてくれるだろうか。待っていてほしい。霞は心の中でそうつぶやいた。
みんなが帰ってしまった後、霞が歌っていた場所にはすでに人の流れができていた。結局あの人はいなくなってしまった。ひと言お礼が言いたかったと思っていたのに。また来てくれるだろうか。
霞はギターケースを担いでまた現実の世界に戻っていく。駅まで歩いている途中に雨がぽつりと落ちてきた。霞は急いで地下道の入口に走っていく。地下道の入口の階段を降りたところで霞は寛太郎を見つけた。
目と目であいさつをした後、二人はしばらく黙っていた。
「久しぶりですね」
「人がたくさんいたから、声をかけそびれちゃった」
寛太郎はうれしかった。誰も聴く人がいなくても必死に自分の歌を歌っていた女の子の前に、今日はたくさんの人が彼女の歌を聴きに来ている。
それだけで十分に思えた。
「帰っちゃったかと思いました。新しい曲ずっと聴いてほしいって思ってたから。お礼が言いたくて」
「お名前を聞いてもいいですか」
「寛太郎」
「あたしは霞といいます」
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