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 6月に入りそろそろ梅雨入りかと思われる頃、寛太郎は自分の部屋に簾をかけた。

 海辺の町の部屋にあったようなプラスチック製の簾を探したけれど、同じようなものはなかった。

 寛太郎が買ってきたのは、葦でできた高級感を漂わせるもの。この簾があの部屋にあったなら、ずいぶんと雰囲気が変わっただろうなと思った。

 でもやはりあの部屋には、壊れかけたあのプラスチック製の簾が合っている。

 久しぶりのこの部屋が、以前にいたときよりも明るく感じられたのは気のせいだろうか。寛太郎はふとそんなことを思った。

 でも本当にこの場所は自分の居場所なのか。何故この部屋に戻ってきたのか。寛太郎は何もわかっていない。寛太郎は念入りに部屋の掃除をした。

 部屋を出ていった時のまま、いろんなものが散乱していた。

 そういえばこの部屋をこんなふうに掃除をしたのははじめてかもしれない。何とはなくではあるけれど、自分が変わりはじめていることを寛太郎は感じていた。

 さすがにこの季節、少し体を動かしただけで汗がにじみ出てくる。寛太郎は軽くシャワーを浴びて服を着替えた。

 何ともすがすがしい気分。寛太郎は掃除をしていた時に見つけた、一本のカセットテープをCDラジカセにセットして再生ボタンを押した。

 インドネシアの伝統音楽クロンチョン。ゆったりと流れる川のように寛太郎の体に染み込んでくる。甘美なメロディをおおらかに歌い上げる女性歌手。心を解放してくれる音楽が初夏の夕暮れと同化していく。

 寛太郎はドアの郵便受けに入っていた、薫ののメモを読んでいた。何枚も入っていたけど内容はみんな同じ。連絡がほしいというもの。

 ある時期を境にメモは入っていないようだ。メモが無意味であることに気づいたのだろうか。メモは入れなくても様子は見に来ているんだろう。寛太郎はそう思った。

「由貴さんは隆くんの言っている人とは別人みたいだよ」

 薫と隆はコーヒーショップにいた。薫が肩をたたいて隆を驚かせたときに入った、あのコーヒーショップに。

「由貴さん東京生まれの東京育ちみたいだし。妹さんもいるみたい」

「そうなのか」

 隆は薫が携帯で写した由貴の写真をじっと見ていた。

「たしかにねえ。ぼくの知っている夢見さんは高校生ぐらいまでだし、化粧や髪形で印象がずいぶん変わるから、本当のところはぼくにもよくわからない。でも、あの時はなんていうか、遠くからなんだけど夢見さんだって感じたんだ」

「実際に会ってみれば」

「でも、ストーカーと間違われてるみたいだし」

「そうだよね。住んでるところまで追っかけちゃったんでしょう」

「どうにも自分が抑えられなくて」

 もし自分がストーカーされたらどう感じるんだろう。薫は隆の顔を見ながら考えていた。このままにしていたら、隆はまた何かを起こしてしまうかもしれない。

 その夢見さんという人から隆を解放してあげなくては。薫はそう思っていた。由貴さんは夢見さんじゃないのだから。

「ねえ、あたし由貴さんに説明してみるから。会えば納得するんでしょう」

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