1-7

 あの人は本当に夢見さんなのだろうか。隆は考えていた。

 そうなんだ。誰も夢見さんの遺体を見たわけじゃない。

 牧師さんからもそう聞いている。どうして夢見さんは海の中に消えたのか。

 牧師さんは事故だと言っていたけれど、本当のことを隠しているのかもしれない。

 あの人影が消えてしまった場所。だいたいの見当はついた。でも、そこは隆が行けるような場所ではなかった。

 高級クラブのホステスか。ただ確かめるだけ。それだけでいいんだけれど、その方法が見つからない。

 ビルの影から様子をうかがっていた隆の肩を誰かがたたいた。

「何やってんのよ」驚いて隆が振り返る。

「なんだ薫ちゃんか。心臓が止まるかと思った」

 薫と隆は近くのコーヒーショップに入った。

「恋する目をしてたよ」そう言いながら薫は隆の顔を見て笑っている。

「別に、そんなんじゃないよ」

「本当かな」

「でもあの店はやめた方がいいんじゃない」

「そう思う」

「そう思う」

 安堵と落胆が混じり合った顔ってこんな顔なんだ。薫はうつむきかけた隆の顔を見てそう思った。

「あいつはどうしてる」

「ヒロさん」

「元気だよ。思ってたよりずっと。もしかしたらその辺でギター抱えて歌いはじめるかもしれない」

「本当に。たしかにあいつは学生の頃そんなことやってたけど」

「聞いたことあるの」

「ないよ、話だけ。もう一人相棒がいてさ、二人でやってたんだ。歌ってたのは相棒のほうで、あいつはギター弾いてただけだったみたい」

「その相棒の人は今何やってるの」

「わからない。そいつとは付き合いなかったから」

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