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隆が実家の近くにあった小さな教会に通っていた頃、イエス様はいつも
自分を見ていてくれていると信じていた。でもその存在を強く感じることなんてほとんどなかった。
年が近いこともあって牧師の娘の夢見さんとは仲が良かった。というより隆より年上だった夢見さんがよく面倒を見てくれた。
「ねえ、イエス様は本当にいるの」
「いるわよ。いつもここに」
そう言って夢見さんは胸のペンダントを握りしめた。
そうなのか。
イエス様は夢見さんのペンダントの中にいるんだ。隆はそう思っていた。
そんな夢見さんが海の中に消えてしまったと聞いた日、隆はイエス様もいっしょに消えてしまったと思った。そしてその時初めて隆はイエス・キリストの存在を強く感じた。その日隆は海の見える丘に上がって、夢見さんが消えてしまった海を見て祈った。
ただ祈った。
水平線の彼方、遠い異国の海に夢見さんは消えてしまった。
そして天国に昇った。イエス様といっしょに。
その時に、何だかわからない、何だかわからないけれど、すべてがすっきり透明になったように感じた。
どうしてこんなことを急に思い出したのか。隆は今になってもあの時のあの透明な感じが何だったのかわからないでいた。そして時々、こんなふうに不意に思いだす。
夢見さんが自分を呼んでいる。そんなふうに感じることがたまにあった。
もうあの時からずいぶんと時間が流れてしまっているのに。
寛太郎はどうしているのだろうか。携帯電話もつながらなくなっている。もうあいつには携帯電話なんて必要ないのかもしれない。そんなことを考えながら隆はズボンのポケットを探って携帯電話の所在を確かめた。
「自分にも必要ない」
そう言い切ることができない自分がいる。どうしてなんだろう。隆はいつの間にか自分の足が寛太郎のアパートのほうに向かっていることに気づいた。
「行ってみようか」隆は心の中でつぶやいた。
信号待ちをしていると、通りの向こうを見覚えのある人影が歩いていた。
「そんなはずはない」
隆は突然現れた懐かしさを振り払うように自分に言い聞かせている。
それなのに、信号が変わるとその人影を急ぎ足で追いかけていた。そして、その人影に追いついて確認する勇気がないまま、つかずはなれずその人影を追っている。
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