1-2

 いつもの昼食の場所に寛太郎が来なかったので、隆は昼食をすませると

寛太郎のいるセクションに向かった。

 部屋の中に寛太郎は見当たらない。隆は近くにいた女性事務員に寛太郎の所在を聞いてみた。

 女性事務員はぼんやりとした顔のまま「さあ」とだけ答えて首を横に振った。

「風邪でもひいたのかな」隆は言葉をつづけた。寛太郎のセクションはいつもと変わった様子はなかった。

 いつもどおり。寛太郎の存在はこの場所から半分消えかけている。

 自分と同じ境遇。隆も職場の中で疎外感を感じている。何かを悟ったように隆は部屋を出ていく。

「こんなんじゃ誰も救われない」歩きながら隆は何度もつぶやいていた。

 隆が部屋を出ていった後、部屋の中が少しだけざわついた。寛太郎の不在をようやく気づいたようだった。寛太郎の上司はちょっとだけ顔をしかめた。そして何人か部下を呼んで話を聞いていた。


 寛太郎が職場から消えて一週間。特に何のトラブルも発生しなかった。人事担当者が上司を訪れたときに少し揉めただけ。

 そんな時、突然の来訪者が現れた。

「門野寛太郎さんはいらっしゃいますか」二十代後半と思えるその女性は、ドアから一番近くにいた女性事務員にこう尋ねた。

「ずっと休んでいるんですが」

 訪ねてきた女性は少し不安そうな顔をして「そうですか」とゆっくりとかみしめるように言った。

 あきらめた様子で女性は部屋を出ようとしたが、振り返って「自宅にはいるんでしょうか」と尋ねた。

「多分…」

 女性事務員のあいまいな返事を聞きながら女性は部屋を出ていった。

「きっと飲み屋の女だよ」

「だいぶ派手な感じだったな」

「でも、あいつ飲み歩くようなタイプじゃなかったよな」

「人は見かけによらずか」

「あーやらし」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る