第38話:スタンピード③
――バキンッ!
だが、聖剣は役目を終えたと言わんばかりにその場で砕け、ヴィッジは風に乗って散っていく残骸を見送っていく。
「これが、俺のスキルか。……ありがとう」
名の無い聖剣にお礼の言葉を送り、ヤタはゆっくりと降下していく。
周囲の様子を見て、ヴィッジはこれなら大丈夫だと確信を得ながら、グレイズに声を掛けた。
「ありがとうございました、グレイズさん」
「お、おぉ。しっかし、オークションに流れてくるような質の良くない聖剣だったが、ヴィッジの手に掛かればこうも威力が増すものなのか」
スタンピードを乗り切る一助になればと思っていたグレイズにとって、半数以上もの魔獣を仕留めた事実は予想の遥か上をいく結果だった。
「ですが、聖剣は砕けてしまいました。これからは、自力で魔獣を押し止めなければいけません」
「……は?」
だが、ヴィッジの発言は、さらに上をいく予想外過ぎる言葉だった。
「ですから、これからは自力で魔獣を」
「ち、違う! せ、聖剣が、どうしたって?」
「……? 聖剣は砕けてしまいましたよ?」
当たり前のように口にされた事実に、グレイズは固まってしまう。
「あの聖剣は、模倣聖剣でしたからね」
「……な……なな…………なんだとおおおおぉぉっ!?」
聖剣はとても強力な武器になる。それ故に、使用できる人物も限られてしまう。
人間が聖剣を選ぶのではなく、聖剣が人間を選ぶのだ。
だからこそ王族が厳重に管理しており、国に仕える人物に聖剣を使える者がいれば、その者を囲い込もうとする。
一方で、聖剣の能力を再現し、誰にでも使えるようにできないかという研究も行われており、その結果として作られたのが今回の模倣聖剣だった。
模倣聖剣は誰にでも使えたものの、その能力は既存の聖剣には劣り、さらに全ての能力を発揮できるものではなかった。
さらに、通常は不滅であるはずの聖剣だが、模倣聖剣はいずれ壊れてしまうという欠陥品だったのだ。
「俺は握った直後に分かりましたけど……もしかして、知らなかったんですか?」
「あ、あぁ。……いや、待てよ? ハウザーはあの時、確か――」
そこでグレイズは、ハウザーとフラッグと飲んだ夜のことを思い出していた。
『――……まあ、あなたの考えていることは理解できました。ですが、それなら経費でもいいのですよ? 消耗品ですし』
『――いずれ壊れるものじゃないですか』
消耗品だと言い張り、さらには聖剣であるにもかかわらず壊れるものだと言い切っていた。
「……あいつ、これが模倣聖剣だって、知ってたなあっ!?」
この場にハウザーがいないことをいいことに、グレイズは罵詈雑言を吐き捨てながら、大股で迫る魔獣の方へ歩いていく。
『ヴィッジ、そっちはもう大丈夫そうだね』
「あ、はい。でも、どうしてグレイズさんが聖剣を持っているって知ってたんですか?」
フェリシアからの呼び掛けに答えながら、ヴィッジは質問する。
すると、クスクスとフェリシアの笑い声が聞こえてきた。
『実はね、事務室でグレイズさんが給料の前借をしている書類があったの。グレイズさんがお金に困っている様子もなかったし、誰のためにお金が必要なのかって考えたら、ヴィッジ以外には思いつかなかったんだよ』
「グレイズさんが、俺のために……」
グレイズの背中を見つめながら、ヴィッジは自分がまだまだだと改めて実感した。
『フェリクスはアンジェリカたちのところに飛ばすから、そっちは任せたよ!』
「……はい!」
ヴィッジは駆け足になると、グレイズの隣に移動して魔獣を見据える。
半数以上を仕留めたとはいえ、魔獣はいまだに200を超える数を有している。
「……はぁ。俺の、三年分の給料が」
「俺がきちんと支払いますよ」
「バカか! それじゃあ、俺の立つ瀬がないじゃねえか! ……ふん、このスタンピードで、しっかり稼いでやるさ!」
「あとひと踏ん張りですね、いきましょう!」
「……がははははっ! てめえが言うのかよ、ヴィッジ!」
気持ちを切り替えたグレイズは、ヴィッジの言葉を受けて不敵に笑う。
そして、遠くの方から迫る魔獣の第二陣に対して、吠えてみせた。
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