第32話:会議①

 ――その後、戻ってきた幹部四名と共に会議となった。

 話の内容はもちろんスタンピードなのだが、それと同時に西の山でハウザーが遭遇した討伐ランクSの魔獣、リントヴルムへの対処も忘れてはならない。

 遅れて戻ってきたグレイズが役所には走っており、ライナーとシェリアは会議に参加しているものの、話が飛躍し過ぎてついていけていない。


「……ねえ、フェリシア」

「どうしたの、ルカ?」

「リントヴルムへの対処は、私に任せてくれないかしら?」

「ルカ殿!」


 ルカの提案に口を挟んだのはアンジェリカだ。


「何、アンジェリカ」

「今の言い方だと、ルカ殿だけでリントヴルムを討伐すると聞こえましたが?」

「その通りよ」

「えっ! 危険過ぎるよ、ルカちゃん!」

「そうですよ、ルカ様!」


 アンジェリカの問いにルカが応えると、エリリスとヴィッジも反対だと口にする。


「でも、私なら一人でも対処できるわ。その間に、みんなはスタンピードに対して準備を整えておいて欲しい」

「ですが、協力した方がさらに確実に――」

「私は、飢えているのよ」


 頑なに止めようとしていたアンジェリカの言葉を遮り、ルカが口を開く。


「ここ最近は、満足できる相手と戦うことができていない。レベルもなかなか上がらなくなってきている。ここでランクSの魔獣を討伐できれば、私はさらに強くなれる気がするのよ」

「……で、ですが」

「アンジェリカ。私を、信じてくれない?」


 長い付き合いであるルカとアンジェリカ。

 こうなったルカは、どんな説得を試みても首を縦に振ることはないということを、嫌というほど理解している。


「……せめて、精霊の加護を与えてもいいかしら? 片道分なら、無駄な体力の消耗を抑えることができるから」

「アンちゃん!?」

「危険です、アンジェリカ様!」

「ありがとう、アンジェリカ」


 ルカが頑固だということはエリリスも理解しているだろう。

 だが、まだまだ思考が幼いエリリスではルカの希望を飲み込むことができなかった。


「フェリちゃんからも何とか言ってよ!」

「そ、そうです! フェリシア様からの命令ならルカ様だって!」

「うーん……まあ、ルカなら大丈夫でしょ!」

「「……ええぇぇぇぇっ!?」」


 頼みの綱だったフェリシアがまさかの許可を口にしたことで、エリリスとヴィッジは愕然としてしまう。


「フェリシアもありがとう」

「ルカが頑固なのは、誰よりも私が一番理解しているからね!」

「マスター。自信満々で言わないでくださいよ」

「えぇー! でも、アンジェリカだって納得したじゃないのよー!」

「納得はしていません! 諦めたんです!」

「……それ、同じことじゃないかしら?」


 フェリシア、ルカ、アンジェリカが会話をしている横で、エリリスとヴィッジは口を開けたままポカンとしている。

 そして、その中でも素直な性格をしているエリリスだけはどうしても納得することができなかった。


「ダメだよ!」

「……エリリス。落ち着きなさい」

「絶対にダメ! どうしてアンちゃんもみんなも、ルカちゃんを一人で行かせるのさ! ルカちゃんが行くなら、私も絶対についていく! 認めてくれなくても、内緒でついていくんだからね!」

「それはもう、内緒じゃないですよ、エリリス様」

「ヴィッジは黙ってて!」

「は、はい!」


 この場では最年長であるヴィッジが、幹部では最年少のエリリスに怒鳴られている姿に、ライナーとシェリアは驚いている。

 しかし、二人のことは気にすることなくエリリスは言葉を重ねていく。


「私のスキルがあれば、ランクSの魔獣も倒せるよ! ルカちゃんと協力できれば、万に一つも負けることなんてあり得ない! レベル上げも大事だけど、ここは安全第一で――」

「エリリス」

「――!!」


 ルカはエリリスの名前を口にしただけだ。

 この場にいるほとんどの者が特に何も感じておらず、二人のやり取りを見守っている。

 だが、名前を呼ばれたエリリスだけは違っていた。

 ルカの鋭い視線を浴びて、抗えない威圧感を覚えてしまう。


「時間が無いの。これ以上我儘を言うようなら、あなたを気絶させて向かうことになるわよ?」

「……どうして……どうして、一人で行くんだよ!」

「理由はさっきも言ったわ。私は飢えている。強い相手にね」


 そう口にしたルカはアンジェリカに視線を向けると、加護を与える。

 精霊の加護は体力の消耗を十分の一に低下させることができるが、その持続時間は12時間。

 片道分ではあるが、リントヴルムに備えるには十分な効果である。


「…………ぅぅ……」

「ハウザーさん!」


 その時、ハウザーが深い眠りから目を覚ました。

 全員が駆け寄ると、すぐに状況を把握したのか、その口から告げられたのはリントヴルムの居場所についてだった。


「……リントヴルムは、洞窟の中に、隠れています。山の入口から洞窟まで、目印を付けているので、それに従って……ぐぅぅっ!」

「ありがとうございます、ハウザーさん」


 アンジェリカが再び精霊スキルを発動させて回復魔法を施していく。


「……ふぅ。助かりました、アンジェリカ様」

「いえ、そんな」

「……ルカ様が、向かうのですね?」

「はい」

「そうですか。……ルカ様、もし可能ならですが、スキルの使用は控えてください」


 ハウザーの言葉は、この場にいた全員を驚かせた。

 ルカのスキルは一度使用すると、次の使用まで24時間は空けないといけなくなる。

 その分強力なスキルではあるのだが、ハウザーはそのスキルを使うなと言っているのだ。


「何か理由があるんですか、ハウザーさん?」

「……マスター。スタンピードは、24時間以内でやってきます」


 衝撃的な一言に、全員はさらなる衝撃を受けてしまった。

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