第27話:獣魔師②

「うぅ~ん! とっても美味しいよ、アニマさん!」

「本当ですね。素材の味もしっかりしていますし、邪魔をしない味付けも素晴らしいです」

「だってよ、ご主人さーん!」

「ありがとね!」


 エリリスが食べているのは、アルカンダリアではポピュラーな魔獣であるバルホース。

 獣魔のルークの下位に当たる魔獣で、東の森に多く生息している。

 筋肉質で歯ごたえのある肉は男性に人気が高いのだが、エリリスもその歯ごたえを好み、よく口にする食材だ。

 ただし、調理の仕方によっては単に硬くなってしまい、旨みが全く無くなることもあるのだが、女主人の料理は旨みもあり、硬さも程よく残っていることで、エリリス以外の女性からも人気のあるメニューになっていた。


 アンジェリカが食べているのは、こちらもアルカンダリアではポピュラーな根菜を煮込み、味を染み込ませた味わい深い料理である。

 多くの店では細切りにして炒めることがほとんどの硬い根菜を、ここでは数時間煮込み続けて味を染み込ませ、ナイフを軽く押し付けるだけでスルリと入るほどの柔らかさを持たせている。

 他にも多種多様な野菜を使って炒め料理や焼き料理などバリエーションも多く、やはり女性にも人気が高いものだった。


「……ですが、何故でしょう?」

「あれ? アンちゃんも思った?」

「どうしたんだい?」


 料理を口に運びながら、アンジェリカが疑問の声を漏らし、それはエリリスも同様だった。


「この味わい、ギルド本部で食べているご飯と同じものを感じるんです」

「だよねー! 初めてくるお店なのに、初めてな気がしないんだよねー!」

「そりゃそうだろうね!」

「どういうことですか?」


 二人の視線がアニマに向くと、行儀は悪いがフォークで刺した肉を持ち上げながら答えを教えてくれた。


「ここ一年くらいだけど、ギルドにご飯を運んでくれているのは、ここのお店なんだよ」

「「……ええええぇぇっ!?」」

「スターラインさんは知っていると思っていたけど、聞いてなかったのかい?」


 ギルド内部のことを任されているアンジェリカだったが、食事に関しては全く触れていなかった。

 もし食事に不満があれば調べていたかもしれないが、目の前の料理と同じように大満足だったことから、特に気にしていなかったのだ。


「知りませんでした」

「まあ、食事はリクルートさんとラッシュアワーさんが決めてたから、仕方ないかもしれないね」

「でもでも、これだけ美味しかったら、お店のことくらい教えてくれてもいいのにー!」

「あはは! まあ、今日知れたからそれでいいじゃないか!」


 アニマはそう言いながら、フォークに刺していた肉を頬張った。


「そういえば、スターラインさんとリスターナさんは、どうして大輪の花に加入したんだい? 二人のスキルなら、他のギルドも諸手を上げて加入を喜んだんじゃないかい?」


 アニマの質問に答えたのは、エリリスだった。


「私はビビーって来たからかな!」

「……えっ、それだけ?」

「そうだよ! だって、他のギルドからは嫌な感じしかしなかったんだもん」

「エリリスは感覚派ですからね。ですが、その直感が不思議と当たることが多いから謎ですがね」

「謎って何よ、謎ってー!」


 両手をブンブンと上下に振って怒っているエリリスだが、身長が低いせいもあり迫力には欠けている。

 アンジェリカはいつも通りだと無視しており、アニマは可愛らしいと笑みを浮かべていた。


「それじゃあ、アンジェリカさんはどうなんだい?」

「あー! アニマさんも無視したー!」

「私ですか? 私は……たまたま、でしょうか」

「たまたま?」


 いじけてしまい料理を食べ始めたエリリスを置いて、二人は話を進めていく。


「えぇ。役所のギルドメンバー募集掲示板を見て、大輪の花に決めたんです」

「なーんだ。アンちゃんも直感じゃないかー」

「エリリスと一緒にしないでください」

「えぇー? でも、直感でしょー?」

「今の理由じゃあ、リスターナさんの言っていることが正しいんじゃないかい?」

「うっ!? ……まあ、そうかもしれませんね。ですが、誘い文句に興味を持ったということもあります」

「へぇー? どんな誘い文句だったのー?」

「こら、リスターナさん。行儀が悪いわよ」


 エリリスがナイフをクルクル回しながら聞いてくる。

 その態度に少しだけムッとしたアンジェリカだったが、アニマが注意をしてくれたのでそのまま答えることにした。


「……家族のようなギルドを目指す、というものでした」

「家族かぁ。確かに、大輪の花は家族みたいな温かさがあるよね!」

「年齢的には姉妹みたいな感じでしたけど、それでも温かみがあって、家族というのはこんな感じなのかと思うことができました」

「そうかい。それじゃあ、今でいうと私がお母さんで、最年長のフォレスナーさんがお父さんってことになるのかしら?」

「アニマ殿はまだ若いじゃないですか」

「女性陣では最年長だからね! まあ、獣魔の世話もしているし、みんなの世話も嫌いじゃないよ!」

「それじゃあ、アニマさんじゃなくて、アニマ母さんと呼ぶべきかな!」

「あはは! なんだいそれは。まあ、任せるよ!」


 楽しそうに笑ったアニマたちの食事は、以降も笑みの絶えないものになった。

 これからも通い詰めようと笑いながら口にしているアンジェリカとエリリスを見て、本当の家族みたいだと思ったアニマなのだった。

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