第25話:幼馴染④

 ――フェリシアとルカは幼馴染だ。

 出身はアルカンダリアではなく、大陸の最西端にある田舎の村だった。

 幼少期からずっと一緒に行動しており、フェリシアが童顔だったこともあり、二人のことを知らない人から見れば、仲の良い姉妹に映ったことも少なくなかった。

 そんな二人が村を出る決意をしたのは早く、12歳の時である。


 お互いの両親からは当然ながら反対された。

 12歳と言えば、まだまだ子供であり、どれだけ稀有なスキルを持っていたとしても、外に出れば魔獣に殺されることだろうと怒鳴られもした。


『――一緒に行こう、フェリシア』

『――私は、ルーちゃんについていくよ!』


 大輪の花のギルドマスターはフェリシアだが、誘ったのはルカの方だった。

 だが、これはお互いに納得していることでもある。

 フェリシアのスキルを知った村の人々は、家族も含めて村の中でだけ暮らさせようと思っていた。

 もちろん、フェリシアのことを考えての提案だったのだが、それをフェリシア本人が頑なに拒否を示したのだ。

 当時は子供だったという自覚もフェリシアにはあるのだが、ルカについていくという選択が間違っているとは思っていないし、これからも思うことはないだろう。


 故郷を発ってからは様々な都市に立ち寄ったのだが、子供だけでギルドを設立することはできず、またフェリシアのレベルが1ということで門前払いされることもあった。

 そこで奮起したのが、自ら誘ったルカだった。

 フェリシアのことを何があっても守ると誓っていたルカには、経験値倍々スキルの効果が当時から発生していた。

 魔獣を狩り、レベルを上げて、12歳という若さでレベル20に到達してしまった。

 その時にアルカンダリアに到着し、担当してくれた役所の職員が上の者に話を通し、レベル1ながらフェリシアをギルドマスターとする大輪の花が設立されたのだった。


「――……懐かしいことを、思い出してしまったわね」


 南の丘を上りながら、そんなことをポツリと呟く。

 フェリシアに外の世界を見せたいと思い声を掛けたのだが、今では自分がフェリシアに外へ連れ出されている。

 アルカンダリアでギルドを設立したことで、さらに外を見る機会というのも減ってしまった。


「私は、故郷を飛び出して、正解だったのかしら」


 フェリシアのためと思って連れ出したが、実は自分のためだったんじゃないかと、自問自答することが最近は多くなっている。

 だからこそ魔獣狩りに出て、気分を晴らしていたところもあったくらいだ。


「……あら?」


 横になっているシルバーが見えてくると、胴体の影から足が覗いているのが見えた。

 足取りを遅くし、足音を消して近づいていくと。


「……嘘……普通、寝る?」

「くぅー……かぁー……」

「……ブルゥゥ」


 フェリシアの寝顔を見ていると、自分が悩んでいたことがバカみたいに思えてきた。


「……全く。そんな幸せそうに寝てたら、間違いじゃなかったって思えるわね」


 フェリシアの横に座り、流れる銀髪を優しく撫でる。

 ルカがここまでフェリシアのために動けたのには、当然ながら理由がある。

 幼馴染で、幼少期からずっと一緒だったこと以上に、大事な理由が。


「…………ん……ふぇぁ?」

「おはよう、フェリシア」


 まぶたを擦りながらゆっくりと体を起こしたフェリシアは、キョロキョロと周囲を見る。

 徐々に記憶が蘇ってきたのか、大きくあくびをしながら、最後はルカに視線を止めた。


「……うん、おはよう」

「気持ちよく眠れたかしら?」

「……うん。シルバーもありがとう」

「ブルフフフン」

「……えへへ~、モフモフ~――ぎゃん!?」


 寝ぼけ眼で再びシルバーの体毛を堪能しようとしたフェリシアだったが、同じタイミングでシルバーが立ち上がったこともあり、地面に顔から激突してしまった。


「……痛いよ~」

「もう戻るわよ。ほら、さっさと手を取りなさい」

「自分から誘ったくせにー!」


 文句を言いながらも、伸ばされたルカの手を取ったフェリシア。

 そのままシルバーの上まで引っ張り上げられると、慣れた様子でルカの後ろに座る。


「行くわよ」

「はーい!」


 走り出したシルバー。

 ルカの後ろに座るフェリシアは、風が気持ち良いのかずっと笑っている。


「……その笑みに、私は救われているのよね」

「えっ! 何か言った、ルカー!」

「何も言ってないわよ」

「えぇーっ! なんだってー!」

「……もういいわ」


 ルカは表情が少ない子供だと、ずっと言われ続けていた。

 だが、フェリシアだけはルカの小さな表情の変化を読み取り、感情の機微を理解してくれた。

 友達がいなかったルカにとって、フェリシアは唯一の心を許せる存在だったのだ。

 今も、フェリシアの言葉に、笑い声に、表情に癒されながら、前を向いて小さく笑うルカなのだった。

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