第24話:幼馴染③
ルカに懐いている獣魔、シルバーは銀の体毛を持つ美しい一角馬である。
アニマが調教した獣魔の中でも一、二を争うほどに難しい調教だったが、その分個体の実力も高い。
二人乗りでシルバーを走らせたルカが向かった先は、南の丘の上。
ここは、フェリシアとルカが大輪の花を設立する前から、二人のお気に入りの場所となっている。
「うわー! ここはいつ来ても、綺麗だねー!」
「えぇ、そうね」
丘の先に広がるのは、赤や青や黄など色鮮やかな花が咲き誇る花畑。
大輪の花がトップギルドと呼ばれるようになるまでには、多くの紆余曲折があった。
その度に二人はこの場所に足を運び、この美しい景色を眺めて心を落ち着かせたものだ。
「……今日はありがとうね、ルカ」
「どういたしまして」
「シルバーもありがとう! あぁ~、今日もモフモフだね~」
「ブルフフフ」
「シルバーも、フェリシアが好きだものね」
「そっか……えへへ~」
ルカの言葉に、フェリシアはとても嬉しい気持ちになった。
「どうしたの?」
「ん~? だって、シルバーも、って言ったじゃない?」
「えぇ、言ったわね」
「それって、ルカも私のことが好きってことでしょ? だから嬉しかったんだよ」
「……あ、当り前のことを、わざわざ言葉にしなくてもいいのよ」
「あっ! ねえ、聞いたシルバー! 当たり前だって、えへへ~」
「ブルフフン」
「……はぁ。もういいわ」
これ以上は何を言ってもフェリシアに口で敵わないと悟ったルカは、この場をシルバーに任せて少しだけ席を外すと口にする。
「どこに行くの?」
「ちょっと、用事を済ませにね」
「そっか。……気をつけてね」
「えぇ。ここは大事な場所だもの、汚させはしないわ」
「そういう意味じゃないんだけどなぁ」
微笑みながらフェリシアはシルバーの毛並みを優しく撫でる。
その様子をしばらく見つめていたルカだったが、悪意の気配が動きを見せたこともあり、視線を後方へと向けて歩き出す。
「……ルカ、気をつけてね」
「……ブルフフフン」
「大丈夫、私もルカを信じてるよ」
四肢を曲げて横になったシルバーにもたれたフェリシアは、そのまま茜色になり始めた空を見つめるのだった。
◆◆◆◆
やや道を戻ったルカは、悪意の気配に囲まれたことで小さくため息をつく。
「……さっさと姿を現したらどうですか?」
周囲には人が隠れられるような障害物はなく、傍から見るとルカが独り言を言っているように見えただろう。
しかし、ルカの言葉を受けてなのか、何もない空間が歪むと、そこから五人の男が姿を現した。
「……よく気づいたな」
「あれだけの嫌な視線を向けられたら、誰でも気づくと思うけど?」
「大輪の花の幹部、ルカ・ラッシュアワー。死んでもらうぞ」
「貴様の後は、フェリシア・リクルートにも死んでもらうとしよう」
「我々の前に姿を見せたこと、後悔するがいい」
「いくぞ――がはっ!」
「「「「――!?」」」」
最後に言葉を発した男が突然苦しみ出したことで、四人の視線が殺到する。
そこには、いつの間に移動したのか、男の後方にルカが立っており、男の体を剣が貫いている。
「……き、貴様、いつの間に!?」
「ただ、動いただけよ? 暗殺者なのに、分からなかったのかしら?」
「こ、殺せえっ!」
「「「はっ!」」」
号令を発した眼帯の男が一歩下がると、残る三人が武器を手にして突っ込んでくる。
体を貫かれているものの、まだ息がある男の存在など気にすることなく、武器を振り下ろす。
男の首が、腕が、胴が切り裂かれ、後方にいたルカもろとも切って捨てる算段だったのだが、そこには男の死体しか転がっていない。
その代わりに、曲刀を手にしていた男の体から力が抜けて血だまりに倒れ込んだ。
「く、首があっ!?」
「は、速すぎる!?」
「あなたたちが遅すぎるのよ」
首を刎ねられた男に驚愕した二人の男の動きが完全に止まった。
その隙を見逃すルカではなく、2メートルの大剣とは思えない剣速で振り抜かれると、二人の男の胴が上下に分かたれた。
「ば、化け物があっ!?」
「その化け物を狙ったのは、あなたたちよ? 殺される覚悟、あるのよね?」
最後に残された眼帯の男の体が、姿を見せた時と同じように揺らいでいく。
「こんなところで、殺されるわけにはいかん!」
「スキルなんでしょうけど、私には無意味ね」
「黙れ!」
眼帯の男の固有スキル、蜃気楼は自分の姿を周囲に溶け込ませる能力を持っている。
24時間の内に三回という使用制限はあるものの、暗殺を生業にしている眼帯の男からすると、それでも十分に威力を発揮してくれるスキルだ。
(このまま逃げて、アルカンダリアから姿を消すしかない!)
足音を立てることなく、気配を消して移動を始めた眼帯の男。
だが、その視線の先からルカの姿が消えると目を見開いた。
「――その視線、虫唾が走るわ」
「どうして分か――ぐがあっ!?」
腹部に激痛が走り、視線を下へ向ける。
そこで見たものは、自らの体を貫いて現れたフェリルドの刀身。
「……な……何故、だ……」
「私に気配を探らせたくないなら、レベルを60以上にするべきね」
「60……だと? ……くそ……がぁ…………」
そして、眼帯の男の体からは力が抜け、前のめりに倒れていった。
「……さて、戻りますか。帰りは別の道から帰らなければいけないわね」
刀身についた血を払い鞘に納めると、普段と変わらない足取りでフェリシアとシルバーを迎えに戻った。
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