第23話:幼馴染②

 フェリシアが頼んだのは、ふわふわな生地の上にたくさんのフルーツが乗せられたパンケーキ。

 ルカが頼んだのは、南の大陸から輸入しているカカオを使った苦みがやや強くあるブラックプリン。


「……ねえ、ルカ。それって、美味しいの?」

「美味しいわよ。大人の味、かしらね」

「お、大人の味ですって!?」

「うふふ、フェリシアには、まだ早かったかしら」


 驚きを体で表しているフェリシアを見て、ルカはニヤリと笑いながらそう告げる。


「むっ! わ、私だって、大人の味も食べられるわよ! 30歳なんだからね!」

「幼馴染で同い年なんだから、知ってるわよ」

「そ、そうだけど! ……私だって、ルカみたいな大人の女性になりたいんだもん」

「何か言ったかしら?」

「なんでもないわよー!」


 そんな軽口の後から、食事は始まった。

 フェリシアもルカも、自分が注文したデザートを口に運ぶと、自然と笑みが零れてしまう。

 二人とも初めて訪れる喫茶店だったが、これは人気になるとすぐに納得していた。


「美味しいね、ルカ!」

「そうね。甘いものだけかと思ったけど、私好みのデザートまであるなんて、驚きだわ」

「……ねえ、ルカ」

「……フェリシアは、黙って堪能することはできないのかしら?」

「で、できるわよ! じゃなくて、半分こ、する?」


 そう言われたルカがフェリシアの皿に目を向けると、丁寧に半分に切られたパンケーキが残されている。


「食べたいなら、一人で食べてもいいのよ?」

「ううん。ルカの注文したブラックプリンも気になるの」

「そう? ……それじゃあ、一口だけ食べてみて、美味しいと思ったら半分にしましょう」

「それじゃあ、私のパンケーキも食べてみてね!」


 ウキウキしながらブラックプリンにスプーンを入れたフェリシア。

 スプーンの上でプルプルと揺れているプリンを見て気持ちが高揚し、大きく口を開けて食べてみた。


「……うんうん……うん、うん……うん?」

「あら、こっちは見た目通りに甘いのね。でも、美味しいわ」


 何やら首を傾げながら味わっているフェリシアとは違い、ルカは甘いパンケーキを十分に堪能している。

 ルカは苦みのある料理が好きなだけであって、甘いものが苦手というわけではない。

 なので、甘いパンケーキでも十分に美味しくいただけるのだが、フェリシアは違った。

 苦いものが苦手であり、プルプルと揺れていたプリンの見た目に勝手に騙されて甘く美味しいものだと思い込んでいた。


「……あ、甘く、ない~」

「これが、大人の味よ」


 ここでもニヤリと笑ったルカの表情を見て、フェリシアはパンケーキとプリンを交互に見ている。

 自分の好きなパンケーキを全て食べるか、それとも大人の味を食べきるか。


「……でも、私はこっちの方が好きだから、フェリシアはパンケーキを食べてね」

「えっ! ……いいの?」

「苦いのは苦手でしょう? それくらい知っているわよ」

「……ル、ルカ~!」


 完全にルカのペースで食事が進んでいることに気づいていないフェリシアは、ルカの優しさだと思い感動している。


(だからカカオが使われているブラックプリンを頼んだんだけど……黙っておきましょう)


 何食わぬ顔でそれぞれのデザートを堪能し、そして喫茶店を後にした。


「あー、美味しかった!」

「そうね。いい店を教えてくれてありがとう、フェリシア」


 通りを歩きながら何気ない会話をしていると、フェリシアが次の提案を口にする。


「よーし! 次は鍛冶屋に行こうか!」

「鍛冶屋に?」

「うん! だって、ルカが都市の中だと一番行きたいところなんでしょ?」


 自分の行きたいところに行ったのだから、次はルカの番だと考えていたフェリシア。

 しかし、ルカはその提案に首を横に振ると、別の提案を口にした。


「都市の外に行かない?」

「えっ! でも、私はレベルが……」


 フェリシアがレベル1だという事実は、スキルと同様に秘密にされている。

 これは、大輪の花を妬む相手に隙を見せないための処置でもある。

 現場には一度も姿を見せていないということで、大輪の花のギルドマスターが弱い、という噂は流れているものの、レベル1だということは誰にも知られていなかった。


「私がいるから大丈夫よ。一度ギルド本部に戻って、シルバーに乗って行きましょう」

「やった! モフモフできる!」

「……モフモフが目的じゃないわよ?」

「分かってるよ!」


 常に楽しそうにしているフェリシアを見て、ルカは自然と笑みを浮かべる。


(少しくらいは、モフモフさせてあげてもいいかしら。……でも、用事を終わらせてからだけど)


 笑みを浮かべながらも、内心ではこちらに注がれる悪意に意識を向けていた。

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