第22話:幼馴染①

 今日のフェリシアはとても気分が良い。それは何故か――


「ふんふふーん!」

「ねえ、フェリシア。スキップするのは止めてくれないかしら?」

「えぇー! だって、久しぶりにルカと二人でお出かけなんだよー!」


 一日の大半を魔獣狩りに当てていたルカが久しぶりに休みを取り、フェリシアがダメ元で買い物に誘ったところ、まさかの快諾をいただいたのだ。

 全速力で部屋に戻ったフェリシアは、一番オシャレな洋服に着替えると、ギルド本部を出てから大通りに到着しても、ずっとスキップを継続している。


「そんなに楽しいの?」

「そりゃあね! 本当に久しぶりだし……半年ぶりくらいじゃない?」

「そうだったかしら」

「そうだよ! ……ん? ってことは、ルカって、半年に一回しか休んでないの!?」

「どうかしら。まあ、魔獣狩りをしてても強い魔獣がいなければ、休んでいるようなものよ?」

「いやいや、魔獣狩りが休みって、意味わかんないし!」


 スキップを止めた代わりにツッコミを入れたフェリシア。

 ルカは表情を変えることなく受け止めると、周囲に視線を向ける。


「……それで、どこに向かっているのかしら?」

「……無反応ですかー」

「何か言ったかしら?」

「なんにもー。えっとねー、あっ! あっちの行列ができてる喫茶店だよ!」

「……え、並ぶのかしら?」

「うん、並ぶよ?」


 ルカはせっかちというわけではないが、時間を掛けることが好きではない。

 魔獣討伐であれば時間を掛けることも致し方ないと思うこともあるが、食事のために時間を掛けることを今まで一度もしたことがなかった。


「でもでも、ここの喫茶店はとっても人気があって! 並ぶ価値ありなんだよ!」

「……あっちの屋台で売っている肉の塊でもいいんじゃないかしら?」

「屋台も美味しいけど! 今の私の口の中は喫茶店のデザートなのよ! いいからさ、ルカ! はーやーくー、きーてーよー!」


 ルカの手を取って引っ張っているフェリシアだが、レベル1とレベル57では勝ち目などなく、全く動く気配がない。

 そのことをルカが一番理解しているのだが、必死になって引っ張っているフェリシアを見ていると、不思議と心の中が暖かくなっていく。

 どうしてそうなるのかは分からないのだが、自分の中ではフェリシアだからだと、ルカは勝手に納得している。


「……はぁ。分かった、付き合うわよ」

「本当! やったー!」


 飛び跳ねる30歳を白い目で見つめながら、ルカはため息をつきながらフェリシアと共に列に並ぶ。

 童顔のせいで30歳に見られないフェリシアが飛び跳ねるから問題ないのであって、クールで年相応のルカが同じことをやれば、周囲から白い目で見られてしまうだろう。


(……別に、羨ましくなんかないんだから)


 そんなことを考えているとは露知らず、フェリシアはルカの手を握りながら、今か今かと列の進みを待っている。


「ねえねえ、ルカ」

「どうしたの、フェリシア」

「ルカはどこか行きたいところとかないの?」

「私が行きたいところ?」


 フェリシアに尋ねられ、ルカはしばし考える。


「…………魔獣狩り?」

「なんでよ!? 都市の中でって話だよ!」

「あぁ、そういうこと」

「それ以外に何があったのよ!?」


 騒ぐフェリシアをよそに、ルカは再び考える。


「…………鍛冶屋?」

「……も、もっと女の子っぽいところに行こうとは思わないの?」

「私が? 女の子っぽいところに?」

「うんうん!」

「ないわね」


 今度は考えることなく、即答で否定した。


「えぇ~? なんでよ~?」

「なんでと言われても、興味が無いからじゃない?」

「もっと興味持った方がいいよ! だって、ルカは美人さんなんだからさ!」

「…………それ、強いのかしら?」

「いやいや、強いとかの問題じゃなくない?」

「強くなれないなら、全くいらないわ。不必要よ。邪魔よ」

「そこまで言わなくてもいいんじゃないの!?」


 ツッコミの後には盛大に溜息をつくフェリシア。

 同じタイミングで列の先頭になり、ほどなくして店内に案内された。


「よーし! それじゃあ、まずは女の子が大好きなあまーいデザートを食べて、ルカの女子力を鍛えてあげるわ!」

「いやよ。甘さ控えめな食事を注文するわ」

「だったら、私のと半分こしようよ!」

「半分? ……まあ、それならいいかしら」

「やったー! よーし、何を注文しようかなー!」


 嬉しそうにメニューへ視線を落としたフェリシアを見て、ルカはクスリと笑い、自分もメニューを手に取った。


「注文が決まりましたらお呼びください」

「決まりました」

「早くない!? ちょっと待って、えぇっと、私は~!」


 ルカが主導権を握ったまま注文をしたフェリシアだったが、運ばれてきたデザートを見て大興奮した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る