第21話:男子会②

「……ところでだ、ハウザー」

「今日の本題ですか?」

「……気づいていたのかい?」

「まあ、こんな飲み会を開くくらいですからね」

「ん? どうしたんですか?」


 唯一、大輪の花ではないフラッグが二人の顔を交互に見ながら首を傾げる。


「……はぁ。ちょいと金が必要でよ、給料の前借ができないかを相談したかったんだ」

「お金ですか? ……中銀貨5枚も臨時収入があったのにですか?」

「あぁ。でかい買い物が必要でな」

「……その内容を伺ってもよろしいですか?」

「あぁ。実は、オークションでとある商品が流れるって噂を聞いたんだ」


 オークションと聞いたハウザーは、鋭い視線をグレイズに向ける。


「おいおい、変な商品じゃねえって! これも、大輪の花のためなんだよ!」

「……それで、その商品というのは何なのですか?」

「それなんだがなぁ――」


 グレイズの口から告げられた商品に、ハウザーは腕を組み思案顔を浮かべ、フラッグは驚きの顔を浮かべている。


「……グレイズさん。その噂、本当なんですか?」

「噂だからどうだろうな。まあ、もし本当だとしても、そこまで良い物ではないだろうぜ」

「それでも欲しいんですか? グレイズさんが?」

「……まあ、あなたの考えていることは理解できました。ですが、それなら経費でもいいのですよ? 消耗品ですし」

「いやいや。あれを消耗品とか、お前、あり得なくないかい?」

「いずれ壊れるものじゃないですか」

「……壊れないから珍しいんじゃねえか」


 ため息をつきながら新しく運ばれてきた酒を飲み、グラスを机に強く置く。


「それで、どうなんだい? 前借、お願いできねえか?」

「……いいでしょう。おそらく、良い物ではなくとも、落とすには小金貨が数枚か、中金貨が必要になる可能性もありますか」

「ちゅ、中金貨……」


 ごくりとつばを飲み込んだのはフラッグだ。

 役所のギルド窓口を担当していると、お金を目にする機会は多くある。

 それでも、金貨を目にする機会というのはなかなかなく、フラッグも五年ほど勤めているが数回程度しかなかった。


「……最悪、ギルドの資金の大半を、グレイズが前借するということになりますよ?」

「す、少しくらいは俺にも貯蓄がある! ……それでも、小金貨1枚くらいだが」

「そ、それでも結構な額ですよ! グレイズさん、そんなに持ってるんですか!?」


 貨幣には銅貨、銀貨、金貨と価値が上がっていき、各貨幣にも小、中、大と価値の違いがある。

 各貨幣が10枚で一つ上の貨幣1枚と同価値になる。

 小金貨1枚となれば、一般的な成人男性の一ヶ月分の給金で例えると約三年分の金額だ。


「ふむ……まあ、いいんじゃないですか?」

「い、いいんですか!?」

「……フラッグ、うるせえぞ?」

「だって! ……その、額が額なので、驚きしかないんですよ!」


 大金の話を大声で口にするわけにもいかないと気づいたのか、フラッグは途中から声を潜めた。


「俺だって、趣味とかなら前借なんてお願いしねえよ。ただ、これは絶対に必要になってくるからな」

「ですから、これは経費でも――」

「いいや! こいつは俺からあいつに渡さなきゃならねえんだよ!」

「……はぁ。頑固者だとは思っていましたが、ここまでですか。自分の生活が窮することも気にしないと?」

「借金がチャラになるまで、酒は控える! 今日で最後だ!」


 そう宣言しながら、グレイズは最後の酒を一気に飲み干した。


「……ぷはあっ! どうだ、ハウザー!」

「いや、どうだと言われましても」

「凄い人ですね、グレイズさんは」

「飲みっぷりの話かい?」

「違いますよ!」


 フラッグのツッコミが炸裂したところで、お金の話は終わりとなった。

 グレイズとしては、ハウザーから許可が下りたことでホッとしており、これからの生活に関してもどうにかなるだろうと考えている。

 一方で、ハウザーは内心で苦笑いを浮かべていた。


(あれは確か……まあ、いいでしょう。後から説明しても、問題はないでしょうから)


 とある情報筋から、グレイズが欲している商品についても耳にしていた。

 だが、グレイズの気持ちも大事にしたいと考え、今は口をつぐんでいる。

 いずれ分かることであり、その時でも遅くはないと考えた。


「……大輪の花、もの凄いですね」


 ハウザーやグレイズとは古い付き合いのフラッグだったが、ギルドのことで飲みながら話をしたことはなかった。

 トップギルドの凄さを身に染みて知ることができたフラッグは、フェリシアには逆らわないようにしようと心に決めたのだった。

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