第20話:男子会①

 野盗の一件から数日が経ち、再び酒場へと足を運んだグレイズは別の人物を連れていた。


「さーて! 一緒に飲もうぜ!」

「本当に奢ってもらっていいのですか、グレイズ?」

「あの、私までいいのですか?」

「いいって、いいって! ハウザーもフラッグも、気にし過ぎなんだよ! 野盗討伐の懸賞金が、まだまだ残っているからな!」


 グレイズは男性の知り合いのみを誘い、自らの奢りで酒場に足を運んだのだ。

 これにはグレイズもとある意図があるのだが、今はまだ口にしていない。

 意図は後に、二人が――特にハウザーが寄った時にでも、口にしようと考えていた。


「とりあえず、酒といくつか料理を頼もうぜ! おーい!」

「はいよー! おや、フォレスナーじゃないかい! 最近はやたらと羽振りがいいねぇ!」

「ちょいとばかし、臨時収入があったからな!」

「なら、たんと注文しておくれよ!」


 気安い会話を交わしながら注文を済ませると、すぐに酒が運ばれてきた。


「んじゃあ、とりあえず――乾杯!」

「「乾杯!」」


 その後、料理が運ばれてくると、食事と共に酒が進み、三人とも良い感じで酔いが回っていく。


「しかし、大輪の花は凄い勢いで上に上がってきましたよねー」

「はい。これも、マスターのおかげですね」

「フェリシア嬢がいなかったら、俺たちもいなかったわけだしな!」

「……あの、グレイズさん、ハウザーさん」


 二人がフェリシアのことをよく言っているのを見て、フラッグは興味本位で聞いてみることにした。


「皆さん、どうしてギルドマスターのことをこれほどまでによく仰るんですか? これはあくまでも私の意見ですが、大輪の花は幹部の四名が常に活躍している印象を受けるもので」


 これは、フラッグだけではなく、他の者も感じている疑問だろう。

 実際に、フェリシアは対外的に見れば全く何もしていないのだから仕方がない。

 フェリシアのスキルを公にすれば、フラッグが抱く疑問を解消することはできるだろうが、秘密にしていること――もとい、ギルドを設立するにあたり役所から指示されたことだから、口にすることはできないのだが。


「まあ、俺たちはフェリシア嬢の役目を知っているからな!」

「えぇ。ですから、周りがどう思おうとも、私たちがマスターを下に見ることはあり得ません」

「あっ! ……失言、失礼しました」


 フラッグは自分がフェリシアを蔑ろにしていたことに気づき、慌てて頭を下げた。


「いいえ、フラッグさんの疑問は誰もが感じるものですから、仕方がありませんよ」

「言えないこともあるからなぁ。すまんが、それで納得してくれ」

「もちろんです」


 二人が許してくれたことに気づき、フラッグは苦笑を浮かべながら、今度は軽く頭を下げる。

 酒を飲み直しつつ、料理が少なくなってくると、今度は軽くつまめる料理を注文しつつ、別の話題で盛り上がった。


「それにしても、グレイズさんは凄いですね」

「なんだ、フラッグ。今日は凄い凄いばかりじゃねえかい?」

「いや、実際に凄いんですから仕方ありませんよ」

「ですが、フラッグさんの言葉も納得です。五体満足であればまだしも、隻腕となり、現場から長い間離れていたにもかかわらず、懸賞金が掛けられるほどの相手を仲間と共に倒してしまったんですからね」

「おいおい、ハウザーまでそんなことを言うのかい?」


 褒められることが少ないのか、グレイズは照れ隠しのつもりで酒を飲もうとグラスに口を付けたが、空っぽだったことに気づく。


「……ちっ! おーい、酒のお代わりを頼むー!」

「あいよー!」


 女主人の威勢の良い声を聞きつつ、グレイズは視線を遠くに向ける。

 その様子がおかしかったのか、ハウザーとフラッグは笑っていた。


「と、とにかくだ! 俺は凄くもなんともねえよ! ……ただ、あいつらがトラウマを持たねえかが、心配だな」

「あぁ、新人の……ライナー君とシェリアちゃんでしたっけ?」

「あぁ。単なる薬草採取のつもりが、魔獣でもなく、野盗……人と人との殺し合いを見せちまった。それだけが、心配でならねえんだ」


 急に心配そうな表情になったグレイズだったが、そこに声を掛けたのはハウザーだ。


「彼らなら、大丈夫でしょう」

「……そう思うかい?」

「えぇ。長く付き合っているグレイズは気づいていないようですが、彼らの心はとても強い。その証拠に、あなたの指導に耐え抜いたでしょう?」

「確か、グレイズさんの指導が厳しすぎて、大輪の花はメンバーが増えないんでしたっけ」

「おい、フラッグ。そんな噂、どこで流れてたんだい?」

「役所のギルド窓口では有名ですよ。でも、事実なんですよね?」

「ぐうっ!? ……し、知らん!」

「まあ、嘘か真かは置いとくとして、彼らの心が強いのは間違いありません。ですから、きっと大丈夫でしょう」


 置いとくと言われてハウザーにジト目を向けたが、当の本人は涼しい顔で酒を飲んでいる。

 しかし、ハウザーにはっきりと言ってもらえたことで、何となく気持ちはスッキリしていた。

 そして、そのスッキリした気持ちのまま、グレイズは飲み会をセッティングした理由を口にすることにした。

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