第17話:新人育成⑥

 アンジェリカも部屋を後にし、一人になったフェリシアは窓の外に目を向ける。

 そこにはグレイズにライナーとシェリアがギルド本部を出る姿を見つけた。


「あれ? あっちはアルカンダリアの門だけど、外に行くのかな?」


 最初の依頼をこなしたのは三日前である。

 外に行く依頼を受けるのであればだいぶ早いタイミングになるが、その分ライナーとシェリアが優秀であるともいえる。


「グレイズさんもついてるし、大丈夫だよね」


 三人の姿が見えなくなるまで見送っていたフェリシアは大きな欠伸をすると、昼寝をしようとベッドへ横になったのだった。


 ◆◆◆◆


 ――何やら、ギルド本部が騒がしくなってきた。


「……ぅぅん、どうしたのかな?」


 目を覚ましたフェリシアはまぶたを擦りながら部屋を出ると、廊下からルカが早足で近づいてくる。

 いつも冷静なルカにしては焦った表情を浮かべており、それだけで何か問題が起きたのだと理解することができた。


「ルカ、何があったの?」

「実は、依頼を受けて外に出たグレイズさんたちが、まだ戻りません」

「えっ!? でも、外はもう……」


 廊下の窓に目をやると、完全に日は落ちており、腕に覚えのある者でも深追いはしない時間になっている。

 夜は魔獣の動きが活発になり、普段は問題なく対処できる魔獣であっても命を落とす危険が伴ってくるのだ。


「これから幹部全員で捜索に出るつもりですが……」

「どうしたの? 他にも何かあるの?」


 渋い表情を浮かべたルカは何やら言い淀んでいる。

 しかし、こうしている時間も惜しいと思ったのか、顔を上げて口を開いた。


「ヴィッジが話を聞いた途端、ヤタに跨って先に飛び立ってしまったのよ」

「あちゃー。ヴィッジの奴、まーだ引きずってるのねー」

「もう、一年以上も前の話なんだけどね」

「まあ、ヴィッジにとっては初めての失態で、尊敬するグレイズの左腕を奪っちゃったからね」


 腰に手を当てて大きく息を吐き出したフェリシアは、とにかく残る二名の幹部とも確認が必要だと判断して、ルカに続いて入口の方へ歩いていく。

 すでにアンジェリカとエリリスは出発の用意を済ませており、ハウザーとアニマも心配で姿を見せていた。


「三人が出発したら、私もすぐにフェリクスを飛ばすわ。ルカ、グレイズさんたちがどんな依頼を受けたかは確認できてるの?」

「北の森に生えている薬草の採取よ」

「ってことは、採取の途中で事故に遭ったか、西の森の時みたいに縄張り外から魔獣がやって来たかのどちらかね」

「ヴィッジはヤタで北に飛んで行きました」

「私たちも早く行こう! フェリちゃん!」


 アンジェリカとエリリスも今回ばかりは心配そうな表情を浮かべている。


「そうね。でも、強い魔獣がいる可能性もあるから、三人は絶対に離れないでね」

「ですが、それでは捜索に時間が掛かってしまいます!」

「そうだよ! 私もアンちゃんも強いんだから、単独でも大丈夫だって!」

「いいえ、それは絶対にダメだよ。さっきも言ったけど、フェリクスを飛ばすから三人は一緒に行動して!」


 頑なに一緒に行動するよう口にするフェリシアに納得いかない様子のアンジェリカとエリリス。


「分かったわ。アンジェリカ、エリリス、行くわよ」

「えっ! でも、ルカ殿!」

「ルカちゃん! ダメだよ、別れて探す方がいいってば!」

「フェリシアの、ギルドマスターの言葉よ。従いなさい」


 ギルドマスターが指示を出し、副ギルドマスターが従うのであれば、アンジェリカもエリリスも従うしかない。

 納得はいっていないようだが、渋々頷くとギルド本部を飛び出していった。


「……ねえ、リクルートさん。本当によかったのかい?」

「私も、今回ばかりはエリリス様の意見に賛成ですよ?」


 三人の姿が見えなくなると、アニマとハウザーがそれぞれの意見を口にした。

 グレイズたちの命を一番に考えるのであれば、エリリスの意見が正しいということはフェリシアにも分かっている。

 しかし、今回の決断にはフェリシアなりの考えと決意が含まれていた。


「きっと大丈夫よ。だって、ヴィッジが先に飛んで行ったんだもん」

「……ヴィッジ様、ですか?」

「リクルートさんは、ガイズナーさんをよっぽど信用しているんだね」

「信用もしているし、乗り越えて欲しいとも思っているかな……おっと、私はフェリクスを飛ばしに戻らなきゃ!」


 雑談をしている場合ではないと声をあげたフェリシアは、駆け足で階段を上っていく。

 その様子を見送ったハウザーとアニマは、しばらくその場に残っていたものの、自分の仕事をするしかないと考えてそれぞれの持ち場へと戻っていった。

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