第14話:新人育成③
向かった先は、役所にあるギルド窓口だ。
カウンターが並ぶ一角には様々な依頼書が張り出された掲示板があり、そこから受ける依頼を選び、依頼書をカウンターに持っていき依頼を受ける。
魔獣狩りは常時依頼とされており、討伐証明となる魔獣の一部を持ち込めば討伐報酬が手に入り、素材を持ち込めばその分の報酬も追加で手にすることができる。
薬草採取も同様に常時依頼となっているが、都市の外に出なければならないので今回は関係ない。
「さーて、どの依頼にしようかなー!」
一人だけウキウキで掲示板を眺めているフェリシア。
都市内で完結する依頼にも様々ある。
役所から依頼が出されているものだと、ドブ浚いや壁の落書き消し等。
個人が依頼を出しているものだと、壊れた屋根の修理や広い家の掃除、中には犬の散歩なんてものまであった。
「犬の散歩って、こんなのも依頼として出せるの?」
「子供が自立したことで、寂しくなった人がペットを飼うこともあるんだが、年齢を重ねて足腰が弱ったことで散歩に出られなくなったんでしょうね」
「へぇー……それじゃあ、この依頼を――」
「却下ですね」
「何故に!?」
まさかの却下にフェリシアはものすごい勢いでグレイズへ振り返った。
「フェリシア嬢は、犬の散歩をしたことがありますかい?」
「ないけど?」
「犬に限らず、動物ってのは、慣れ親しんだ人以外にはなかなか寄り付かないもんです。それが初めて会った人間ならなおさらでしょう」
「犬の散歩で、そこまで考えちゃうの?」
「考えないから、フェリシア嬢は失敗してきたんでしょう?」
「ぐぬっ!」
的確な指摘を受け、フェリシアは何も言えなくなってしまう。
その横ではグレイズがため息をついており、これは何があっても依頼を自分が見つけなければならないと気合を入れた。
「あの、師範。これなんかどうですか?」
「どれどれ? ……あぁ、いいんじゃないか?」
「では、グレイズ師範。これはどうでしょうか?」
「へぇ……うん、これも問題ない」
「ど、どうして、ライナー君とシェリアちゃんが選んだ依頼はそのまま受けるんですか!」
「問題ないからに決まってますぜ?」
「ぐはあっ!?」
自分が二人の役に立っていない事実に、フェリシアの膝が崩れそうになる。
しかし、ここまで来たのだから自分でも何か一つはグレイズを認めさせることのできる依頼を選択しなければと奮い立ち、掲示板と睨み合う。
「……あの、師範? 依頼って、ここまで気合を入れて選ぶものなんですか?」
「んなわけないだろう」
「でも、マスターが……」
「フェリシア嬢を見本にはするなよ?」
「「……は、はぁ」」
これでは威厳も何もないではないかとグレイズが嘆息するのとほぼ同時に、フェリシアの目が一つの依頼書で止まる。
「こ、これはどうですか、師範!」
「俺はフェリシア嬢の師範じゃねえっての! ……ったく、どれどれ?」
フェリシアが手に取った依頼書に目を通し始めたグレイズは、表情を険しくすると、視線を依頼書から外してフェリシアに向ける。
ドキドキしながら答えを待っていたフェリシアだったが――
「ほいっ!」
「痛っ!?」
何故かチョップという形で返ってきてしまった。
「な、なんでチョップなんですか!」
「こりゃあ、外に出る依頼じゃないですかい!」
「えっ? そうだっけ?」
目の前に突き出された依頼書の内容を改めて確認するフェリシア。
依頼名は壁の修繕、依頼内容は――
「…………ああああぁぁっ!」
「気づきましたかい?」
「これ、都市の外壁の修繕依頼なんですね!」
「確かに都市の外壁ですから、遠くに行くわけではないんですよ。ですが、やっぱり外に出るからにはこれは受けられない……って、聞いてますかい、フェリシア嬢?」
グレイズが指摘したかったのは外に出るという一点だけなのだが、何故かフェリシアはわなわなと震えて依頼書を両手で掴んでしまっている。
その様子にグレイズだけではなく、ライナーやシェリアまでが顔を見合わせていた。
「……外壁の修繕だなんて、分かりにくい書き方しないでよね!」
「…………いやいや! フェリシア嬢、あんたはちゃんと依頼内容を確認してなかったんですかい!?」
「だって、壁の修繕って見たら、誰でも家の壁だって思うじゃないですか! それなのに、内容を見たら都市の外壁だなんて、詐欺ですよ、詐欺――痛っ!?」
まさかの発言に、グレイズは本日三度目のチョップを炸裂させた。
「内容も確認しないで依頼書を取るとか、危険にもほどがありますぜ、フェリシア嬢!」
「だ、だって~」
「だってもありませんぜ! 今日はライナーとシェリアが選んだ依頼を二つこなします、以上です!」
「そんな! わ、私がまだ選んでませんよ、師範!」
「だから俺はフェリシア嬢の師範じゃねえんですって!」
ギルド窓口に歩き出そうとしたグレイズの足にしがみついてきたフェリシア。
しかし、グレイズは止まることなく、フェリシアを引きずりながら進んでいく。
「……えっと、いいんだよね?」
「……だと思うよ、お兄ちゃん?」
置いてけぼりのライナーとシェリアは、困惑した表情のまま二人の後に続くのだった。
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