第13話:新人育成②
フェリシアが向かった先にいたのは、グレイズにライナーとシェリアだ。
「ライナー君! シェリアちゃん! グレイズさんの指導に耐えたんだね!」
「マ、マスター!?」
「は、はい! 頑張りました!」
「……う、うぅ、おめでとう~!」
祝いの言葉と同時に泣き出してしまったフェリシアだったが、そこへグレイズのチョップが炸裂した。
「痛っ!?」
「だから、フェリシア嬢はドンと構えていろっての!」
「うぅぅ、でもさぁ~!」
涙目のフェリシアにため息をつきながら、グレイズが問い掛ける。
「それで、修練場にどういったご用ですかい?」
「そうだ! ねえねえ、グレイズさん。ライナー君とシェリアちゃんが依頼を受けるって本当なの?」
先ほどルカから聞いた情報を質問すると、グレイズはニヤリと笑って大きく頷いた。
「その通りだぜ! まあ、都市の中の依頼だから危険はないが面倒な依頼になるだろうがな!」
「そ、それでも僕たちは構いません!」
「よろしくお願いします、グレイズ師範!」
グレイズの答えに、ライナーとシェリアは緊張しながらも嬉しそうに口にする。
その様子を見たフェリシアも嬉しくなり、そして一つの提案をしてみた。
「二人の依頼なんだけど、私も同行していいかな?」
「「……え、ええええええええぇぇっ!?」」
「どうしてフェリシア嬢が?」
フェリシアの提案にライナーとシェリアは驚き、グレイズは首を傾げている。
「二人の初めての依頼だよ? 見ておきたいじゃないのさ!」
「いや、母親じゃないんだからよう」
「これでもギルマスなんですー! ギルマスってことは、親代わりじゃないですかー!」
「マ、ママママ、マスターが、一緒に!?」
「お、お兄ちゃん! 私たち、できるかな!?」
「ほれ見ろ。ライナーもシェリアも緊張してるじゃないか」
先ほどよりもガチガチになってしまった二人を見て、グレイズは嘆息する。
そして、フェリシアは申し訳ないことをしてしまったと反省し、提案を取り下げた。
「あの、ごめんね、二人とも。やっぱり、やることもあったし、私は遠慮して――」
「「いえ! もしよければ、一緒に見ていてください!」」
ガチガチなのは変わらないが、二人は何やら決意したような表情でフェリシアを見ている。
何かあったのだろうかとグレイズに視線を向けたが、こちらも理由は分からずに肩を竦めるだけだ。
「うーん……でも、本当にいいの?」
「はい! きっと、これが最終試験なんですよね!」
「……え?」
「断ったら、すぐに退団させられちゃうんですよね!」
「いや、そんなことは決して――」
「「大丈夫です! 二人で協力して、依頼を達成してみせますから!」」
フェリシアが依頼を見届けることが最終試験だと勘違いしてしまったライナーとシェリアは、二人に頭を下げると準備のために急いで部屋へと戻っていった。
「……あの、グレイズさん?」
「……フェリシア嬢、どうしてくれるんだ?」
「わ、私のせいですか!?」
「そりゃそうだろうが! フェリシア嬢が変なことを言わなかったら、あんなに緊張して依頼に向かうこともなかったんだぞ!」
「ご、ごめんなさ~い!!」
顔を押さえて再び嘆息するグレイズに、フェリシアが何度も頭を下げている。
「あいつらも頑固だから、今さら嘘だと言っても、口では納得するが内心では緊張しっぱなしだろうなぁ」
「あぅぅ。これで、依頼を失敗しちゃったら、どうしましょう」
「うーん……まあ、一際簡単な依頼を選んでみるか」
「だったら、私が依頼を選びますよ!」
手を上げてそう告げたフェリシアだったが、グレイズはあからさまに嫌な顔をする。
「……そっちの方が、失敗しそうな気がするのは俺の気のせいですかい?」
「ちょっと! 酷くありませんか、グレイズさん!」
「だってなぁ。フェリシア嬢は、一度も依頼を成功させたことがないじゃないですかい」
「ぐぬっ! ……で、でも、失敗から学ぶことも多いですよ!」
「それは、二人にも失敗させたいってことですかい?」
「違いますよ!」
両手を上げて怒り出したフェリシアに、グレイズは悪戯が成功したかのように笑みを浮かべる。
「がははははっ! 冗談ですよ、フェリシア嬢! まあ、依頼を選ぶのに心配はありますから、一応は俺にも見せてくださいね。それで問題が無ければ、二人にやらせますから」
「……それって、結局はグレイズさんが選ぶってことじゃないですか?」
「いやいや、俺からはどれがいいとか言いませんからね? 全ては、フェリシア嬢に掛かっているんですからね?」
「プレッシャーを掛けようとしてませんか!?」
「……バレましたかい?」
「グレイズさんはやっぱり酷いですよ!」
修練場にグレイズの笑い声が響き渡ると、そのタイミングでライナーとシェリアが戻ってきた。
「……何かあったのかな?」
「……なんだか、楽しそうだね」
そんな場違いの感想が呟かれると、四人はギルド本部を後にした。
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