第12話:新人育成①

 ルカたちがワーウルフを討伐してから三日が経過した。

 ギルド窓口では、西の森を中心に調査依頼が出されており、それらに多くのギルドが群がっている状態が続いている。

 しかし、その中に大輪の花は加わっていない。

 というのも、ルシウスが暴れた騒動の後、ワーウルフの素材を持ってきたヴィッジが換金をお願いしたところ、相当な金額が大輪の花の口座に振り込まれた。

 実際の金額が漏れたわけではないが、討伐ランクAの魔獣が安く買い叩かれるはずもなく、また今までの経験から報酬額の推測を立てることはできる。

 多くのギルドが、次は自分たちだと息巻いており、そこに当事者である大輪の花は加わるなと役所に嘆願書が提出されたのだ。


「ねえ、ルカ。これってどう思う?」

「まあ、私たちとしては楽ができていいんじゃないの?」

「だよねー! お金の問題もないみたいだし、しばらくはゆっくりできそうだね!」

「フェリシアはいつもゆっくりしてるじゃない」

「ぐぬっ! ……み、みんながだよ、あははー!」


 ほとんどの時間を本部の自室で過ごしているフェリシアは、実際に動いているルカに言われてしまい空笑いを漏らす。


「冗談よ、フェリシア」

「分かってるけどさぁ……なんか、みんなに申し訳なくってさー」

「フェリシアがいるから、私たちがいるの。気にしなくていいわよ」

「そう言われてもなぁ……」


 事実、ルカの言っていることに間違いはない。

 経験値倍々スキルのおかげでアンジェリカやエリリスやヴィッジはレベルを上げている。

 裏方とはいえ、ハウザーやグレイズやアニマも順調にレベルを上げてくれた。

 今の大輪の花があるのも、フェリシアのおかげなのだ。


「そうねぇ。それじゃあ、一つ良い情報を教えてあげるわ」

「えっ! 何かあったの!」


 表情をコロコロと変えるフェリシアに微笑みながら、ルカが良い情報を口にした。


「グレイズさんからよ。ライナー君とシェリアちゃんが、依頼を受けるんだって」

「そうなの! ということは、二人はグレイズさんの指導に耐えたんだね!」

「まだまだ子供だし体も小さいけど、根性はあったみたいね」

「うんうん! よかった、本当によかったよ~!」


 最初は都市内で受けられる依頼をこなすのだが、それでもギルドメンバーとして活動を許されたということは、グレイズに認められたということだ。

 フェリシアは幹部だけではなく、グレイズにも全幅の信頼を寄せているので、これで二人は問題ないと胸を撫で下ろす。


「でも、ルシウスみたいに調子に乗ってギルドを抜ける奴もいるから、まだ注意は必要だけどね」

「うーん、二人に限っては大丈夫な気がするなぁ。素直で良い子だし」

「その意見には私も賛成よ。だけど、念には念を入れてね」


 フェリシアに対する勝手な噂は、アルカンダリアで暮らしている人間であれば多かれ少なかれ耳にしているだろう。

 事実、退団した二人の同期たちは影でフェリシアのことを悪く言っており、幹部の誰が素晴らしいかを語り合っていた。

 そんな中、ライナーとシェリアだけは話に加わることなく、大輪の花のギルドメンバーとして活躍したいという思いだけでグレイズの指導に耐えていたのだ。

 その姿勢はグレイズだけではなく、フェリシアやルカも目にしており、二人が一人前になる日を待ちわびていた。


「これでレベルも上がってくれたら、みんなに同行して魔獣狩りになるんだね」

「……正直、エリリスやヴィッジに任せるのは不安が大きいけどね」

「あー、うん、そうだね」


 エリリスは魔獣に対しての知識は豊富だが、20歳という年齢の割に幼さが抜けておらず、まだまだ言葉足らずな部分も多い。

 ヴィッジは脳筋であり、誰かにものを教えることを不得意としている。


「最初はルカやアンジェリカに任せて、後々に二人へ任せるのが正解かな」

「私も得意ではないんだけどね」

「まあまあ、そんなこと言わないでよ。いつも頼りにしているんだからね、ルカ」

「そう言うなら、フェリシアは変なことでいちいち落ち込まないでよね」

「へ、変なことって……」


 自分の悩みを変なことと言われて苦笑いのフェリシアだったが、ルカは気にした様子も見せずに立ち上がる。


「それじゃあ、私は西以外の森に行ってくるわね」

「ゆっくりしてもいいんだよ?」

「体を動かさないと、ゆっくりできないのよ」


 そう口にしたルカは、フェリシアの部屋を出て行った。


「私も、体を動かしたいなー。……そうだ!」


 何かを思いついたルカは勢いよく立ち上がると、ウキウキした気分で部屋を飛び出したのだった。

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