第9話:討伐依頼④
――時を少しだけ遡り、アンジェリカが南の森に入ったその頃。
ルカ、エリリス、ヴィッジの三名は西の森の入口に到着していた。
いつもなら多くの冒険者が行き交っている森なのだが、今は役所から西と南の森に入ることが禁止されている。
そのせいもあってか、西の森には不気味なほどの静寂が広がっていた。
「アンジェリカがいない分、魔法には頼れないわ。それに、獣魔を危険に晒したくないから、ここからは私たちだけで向かいます」
ルカとエリリスの獣魔も森歩きには慣れているが、アンジェリカがいない分隠蔽の魔法を施すことができない。
ヴィッジの獣魔であるヤタならば空を飛ぶこともできるのだが、森の中に潜む魔獣を探すには場所が悪過ぎた。
「私が相手の動きを抑えるから、その隙を突いてエリリスとヴィッジが仕留めてちょうだい」
「了解だよ、ルカちゃん! 相手が硬そうな相手だったら任せるね、ヴィッジ!」
「お任せください!」
楽しそうなエリリスと大声で返事をしているヴィッジを見て、ルカはため息を漏らしながらも西の森の奥に視線を注ぐ。
この先にどのような魔獣がいるのか。
現状、アルカンダリアの周辺にルカが手こずるような魔獣は存在しない。
しかし、相手が突然変異の魔獣であれば話は変わってくる。
(最近は、フェリシアのスキルの恩恵を得ていてもなかなかレベルが上がらなくなってきたからね。相手が強敵であればいいんだけど)
銀色に輝く鎧を身に付け、右手には自らの身長を優に超える全長2メートルの大剣フェリルドを握り、左手にはその身を完全に隠してしまう程に大きな大盾フェリガンズを構える。
エリリスとヴィッジもそれぞれの武器を構え、西の森へと入っていった。
しばらくは森自体に異変らしいものを見つけることはできなかったが、魔獣の気配が全くしないことを考えると、それ自体が異常であると言わざるを得ない。
そもそも、西の森を縄張りにしていたブラックギャングは一個体で行動することは少なく、基本は群れで行動しているのでそれなりに高い討伐ランクが設定されている。
討伐ランクとは、ランクSからA、B、C、D、E、Fと続いており、Sが高く強敵で、Fが低く弱い魔獣。
目にすること自体が少ないのだが、ランクS以上となれば災害認定となり、ランクSSと呼ばれることになる。
ブラックギャングの討伐ランクはCと中間に当たるのだが、群れを率いているのがブラックギャングキングやブラックギャングクイーンであれば、一気にランクAへ格上げされる。
事実を知らないルカとしては、同じランクA、もしくはランクSの魔獣が現れてくれることを願うばかりだ。
そんなことを考えていると、森自体にも異変を見つけることができ始めた。
力任せになぎ倒され、へし折られた木々が目立つようになり、逃げ遅れたのか魔獣の死骸がぽつぽつと転がっている。
そして、どの魔獣も体の一部が引きちぎられたかのように失われていた。
「これは、喰われたんでしょうか?」
「そんな感じだねー。喰うことを目的に西の森までやって来たのかなー?」
「……どちらにせよ、周囲に生きている魔獣の気配はないわね。もう少し奥へ進んでみましょう」
二人の疑問の声にわずかに考えを巡らせたルカだったが、目的は魔獣の討伐であることに変わりはないと判断して足を進めることを優先させる。
大きな木が倒れていることもあり、視界を遮る障害物は多い。
気配を見落として奇襲を受けることがないよう、警戒は密に行っている。
『――グルガアアアアアアアアッ!』
しかし、魔獣はそんな警戒の隙間を縫ってルカの真横から突進してきた。
「甘い!」
――ガキンッ!
それでも異常なまでの反射神経で奇襲に反応を見せたルカは、左手のフェリガンズを突き出して大きく鋭い牙に叩きつける。
甲高い金属音が森の中に響き渡るのと同時に、魔獣は大きく飛び退いて三人から距離を取った。
「エリリス!」
「相手はワーウルフ! 討伐ランクはAの中位だね!」
「これは、強敵ですね!」
エリリスとヴィッジが警戒を強める中、ルカだけは内心で嘆息していた。
(討伐ランクA。……まあ、その程度よね)
大輪の花において、幹部は極めて高い実力を有している。
その中でもルカは抜きんでており、レベルも一人だけ50を超えており、現在ではレベル57に到達している。
次いでアンジェリカのレベル49、エリリスのレベル47、ヴィッジのレベル43。
レベル50台前半までは討伐ランクAの魔獣を単独討伐できるものの、危険を伴うと言われているが、レベル50後半ともなれば大きなミスさせしなければ問題なく戦うことが可能とされている。
そもそも、レベル50を超える実力者がそうそう存在しておらず、大都市のアルカンダリアであっても、ルカを含めて現状は九名しかいない。
そして、残る八名は大輪の花よりも上にいるトップギルドに所属している。
(フェリシアが戦えない分、私が強くならないといけないのに!)
ギュッとフェリルドの柄を握ったルカだったが、再び突進してきたワーウルフを相手に冷静さを取り戻すと、森に入る前とは方針を変えることにした。
「エリリス、ヴィッジ。ワーウルフの相手を二人でやってみてちょうだい」
「えっ! いいの!」
「おぉっ! これは、信頼されている証ではないですか!」
「レベル上げのためよ。二人にも、早く私に追いついてもらいたいからね」
そして、ルカは自分だけが強くても上のギルドを追い抜くことができないことも理解している。
アンジェリカがレベル50に迫っているところで、エリリスとヴィッジにも強くなってもらわなければならない。
「次の攻撃が来たら、私は一度下がるわ。そしたら、後は任せるわよ」
「「はい!」」
『グルガアアアアアアアアッ!』
二人の返事とワーウルフの攻撃がほぼ同じタイミングとなり、弾き返したルカが大きく後退する。
入れ替わるように飛び出したエリリスとヴィッジが、ワーウルフへと躍りかかった。
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