第6話:討伐依頼①

 幹部の四名は全員が戦闘タイプである。

 都市内の仕事もこなそうと思えばこなせるのだが、大概は何かしら失敗もついてきてしまう。

 基本的には魔獣討伐を主にしており、ルカが持ってきた依頼もやはり討伐案件だった。


「南の森に、ブラックギャングの群れですって?」


 依頼書を確認したフェリシアは、疑問の声をあげる。


「ブラックギャングって、小さな蜂に似た魔獣だよね?」

「あれー? でも、ブラックギャングって西の森を縄張りにしてなかったっけ?」


 フェリシアの疑問に同意を示しているのはエリリスだ。

 エリリスは魔獣の知識を豊富に持っており、言葉の通りブラックギャングの縄張りに疑問を抱いていた。


「二人の言う通りよ。だから、私たちは西の森に向かうことになったわ」

「西ですか? ……あぁ、なるほど」

「ん? どういうことですか?」


 現在、フェリシアの部屋には幹部の四名が集まっている。

 ここまでの話を聞いて、脳筋なヴィッジだけが事態を把握できておらず、四名からため息が漏れた。


「いいですか、ヴィッジ殿。西の森を縄張りにしているブラックギャングが移動したということは、西の森にそれ以上の魔獣が現れたということなんです」

「…………あぁっ! そういうことですか!」

「ヴィッジは本当に脳筋だねー!」

「……す、すみません」


 図体が大きく、さらに年上のヴィッジが、年下のエリリスに謝っている姿は何とも見るに堪えないのだが、これで関係が成り立っているのだから不思議なものである。


「とはいえ、南の森も放置はできないわね。他のギルドの動向は?」

「はい。調査によりますと、中堅ギルド、剛毅の堅牢が南の森に向かったとのことです」

「剛毅の堅牢かぁ……確か、ギルマスはルシウス君だったよね?」

「はい。……グレイズ殿の指導に耐えたまでは良かったんですが、強くなった自分に浮かれて出て行った、ルシウス・シールディです」

「……アンジェリカ? 目が、怖いから」


 アンジェリカが怒りを露にしている理由は、まさに口に出された通りだった。

 ルシウスは元大輪の花ギルドメンバーであり、グレイズの指導にも耐えた数少ない人物だ。

 フェリシアのスキルの恩恵も得られたことでレベルが一気に上がったまでは良かったのだが、自分の強さを過信し、大輪の花よりも大きなギルドを造るのだと宣言して退団した人物でもある。


「中堅に留まっているのも、フェリちゃんのスキルの恩恵を得られなくなったからだって、まーだ気づいてないんだよねー!」

「マスターのスキルは、私たち幹部と、一部のメンバーしか知りませんからね」

「その一部ってのがー、ライナー君とシェリアちゃんを除いた全員なんだけどねー」


 最後は遠い目をしながら、メンバーが少ないことを嘆いているフェリシアがそう締めくくる。


「正直、私もルシウスのことは気に食わないけど、剛毅の堅牢が失敗してアルカンダリアに被害が出るのだけは避けたいわね」


 ルカが話を戻すと、最終的な判断はフェリシアにゆだねられたのか、全員の視線がそちらに向いた。


「うーん……それじゃあ、アンジェリカは南の森に向かってちょうだい。精霊魔法で身を隠しながら、さりげなーく剛毅の堅牢を援護ね」

「私が出て行って、一気に焼却してもいいんですが? ……剛毅の堅牢ごと」

「それはちょっとやり過ぎかなー、あははー。でも、確かに手柄を丸々持っていかれるのも癪だし、ちょっとは痛い目を見てもらってもいいと思うな」

「……承知いたしました。精霊王、アンジェリカが、この手腕を遺憾なく発揮したいと思います!」

「お、お手柔らかにねー」


 心の中でルシウスに謝罪しながら、残る三名に視線を向ける。


「ルカ、エリリス、ヴィッジの三名は西の森に。アンジェリカの魔法が無いから、苦戦するとルカが判断したら、すぐに引き返すこと」

「苦戦するなんて、本当に思って言ってる?」

「ないなーい!」

「俺はまだまだ未熟ですが、全力で挑みます!」

「……ルカー。しっかりと判断、よろしくねー?」


 ものすごく心配になってきたフェリシアだったが、これもいつものことだと自分に言い聞かせると、改めて幹部四名に号令を発した。


「それじゃあ、みんな――絶対に帰ってくるように!」

「「「「はい!」」」」


 それぞれが獣魔に跨り、ギルド本部を後にしていく。

 その姿を部屋の窓から眺めていたフェリシアは、鳥かごの中から鳴いているフェリクスに気づいた。


「……あなたも行きたいの?」

『ピー! ピピー!』

「分かったわ。でも、気をつけるのよ?」

『ピッピピー!』


 フェリシアが鳥かごを開けると、フェリクスは部屋の天井付近をグルグルと飛んでいる。

 そして、窓を開け放つと同時に外へと飛び出していった。


「……この瞬間が、心苦しいのよね」


 みんなの帰りを待つことしかできない自分に、フェリシアは毎回のように沈んだ表情を浮かべるのだった。

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