第5話:大輪の花④

 大輪の花に所属する十名のメンバーの内、実際に仕事をこなしているのは現状幹部の四名のみ。

 新人二人は指導中ということで、グレイズが毎日のようにしごいている。

 残りはギルドマスターのフェリシア、事務員のハウザー、獣魔師のアニマという構成だ。

 ルカ以外の幹部三名は、フェリシアのスキル効果を得てレベルが急激に上がり、今の地位になっているが、元は一ギルドメンバーだった。


 新興ギルドだったころの大輪の花には、ルカの実力を目当てに多くのメンバーが集まっていた。

 中には他のギルドから探りを入れるために潜り込んできた者や、ルカを引き抜こうと画策する者までいた。

 だが、ルカはフェリシアへの絶対的信頼を持っているのでなびくことなどなく、むしろ指導だと言ってボコボコにしてしまった。

 そして、最終的に残ったのがアンジェリカとエリリス、そしてグレイズとハウザーだった。

 今では事務職が板に付いてきたハウザーだが、元はギルドメンバーとして仕事もこなしていた実力者である。

 ハウザーの場合はスキルが特殊過ぎることもあり、結果的には事務職に落ち着いていた。


 次に加入してきたのが、アニマである。

 アニマは腕の良い獣魔師を多く輩出しているビーストフォレストの出身者だ。

 だが、ビーストフォレストの中では、中の下という実力しか持っていなかったアニマは、役立たずとして故郷から追い出されてしまった。

 流れに流れて辿り着いたのがアルカンダリアだったのだが、大都市ということもありほとんどのギルドが腕の良い獣魔師――ビーストフォレスト出身の獣魔師を採用しており、加入できる当てがまったくなかった。

 そこへ声を掛けたのが、フェリシアだった。

 アニマはギルドに加入できたことが嬉しく、すぐにフェリシアのことを信頼に足る人物だと思ったことで、経験値倍々スキルの恩恵を得ることができた。

 魔獣討伐が経験値を得る一番の近道だが、それだけが経験値を得る方法ではない。アニマは、獣魔の世話をすることでレベルが上がり、そして一流の腕を持つ獣魔師へと成長を遂げたのだ。


 次に加入してきたのが、ヴィッジである。

 ヴィッジが大輪の花を選んだ理由は、グレイズの強さに憧れを抱いたからだ。

 一般スキルを与えられたグレイズだったが、ヴィッジが加入した時には固有スキルを持っているアンジェリカやエリリスにも劣らない剣技で魔獣を圧倒しており、その背中に追いつこうとヴィッジは必至に鍛錬を続けていた。

 だが、ヴィッジが信頼しているのはグレイズであり、フェリシアではなかった。そのせいもあり、経験値倍々スキルの恩恵を得ることができず、伸び悩んでしまう。

 そんな時――事件は起きてしまった。

 魔獣討伐の依頼を受けて山の中を探索中、ヴィッジが隠れていた魔獣を見落として不意打ちを受けてしまう。

 そこを助けたのがグレイズだったのだが、その際に左腕を喰われてしまい、現役引退を余儀なくされてしまう。

 ヴィッジは何度も謝罪し、自分が死ねばよかったと繰り返していた。

 そんな時、グレイズは豪快に笑いながら、残った右手でヴィッジの頭を乱暴に撫でてこう告げたのだ。


『――フェリシア嬢を信じな。そしたら、お前は絶対に強くなれる』


 当時のグレイズは幹部であり、フェリシアのスキルのことを知っていた。

 だからかもしれないが、ヴィッジが自分だけではなく、フェリシアのことも信頼してくれるよう誘導したのだ。

 そして、ヴィッジもグレイズの言葉だったからこそ、素直に頷くことができた。

 しばらくはふさぎ込んでいたヴィッジだったが、グレイズの言葉を信じてフェリシアを信頼したことで、レベルが一気に上がり始めた。

 最初は何が起きたのか困惑していたヴィッジも、これが大輪の花の幹部たちが桁違いに強い理由なのだろうと察し、さらに鍛錬を続けて今の地位に就いたのだ。


 最後に加入したのが、ライナーとシェリアである。

 兄妹である二人は、新規募集の貼紙を見てやって来てくれた八名の内の二名だ。

 新人は必ずグレイズの指導を受け、そこで合格が貰えて初めて魔獣狩りなどの依頼に挑むことができる。

 当面は都市内の住民からの依頼をこなす形になるが、それを嫌がる者も少なくはない。

 アンジェリカからの話では、退団した六名の内、三名は都市内の依頼なんてしたくないと言って退団したのだとか。

 ならば、残りの三名はどうして退団したのか。それは、グレイズの指導が厳しすぎたからである。

 現時点で、グレイズの指導に耐えられた者は数える程しかおらず、ほとんどが耐えきれずに退団としている。

 指導者を変えるべきではないかと、アンジェリカから進言されたこともあるフェリシアだったが、変えることはなかった。

 グレイズですら手傷を負わされるような魔獣を今後相手にするのだから、グレイズの指導に耐えられなければいずれ死んでしまうだろうと、フェリシアは思っていたのだ。

 結果として、ギルドメンバーはなかなか集まらなかったが、ライナーとシェリアが現状は残ってくれている。

 二人がグレイズの指導に耐えてくれれば、即戦力になるだろうとフェリシアは信じているのだった。

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