第2話:大輪の花①

 ――西の大都市アルカンダリア。

 アルバザール大陸の西に位置するアルカンダリアは、領主が住まう屋敷を中心に貴族街、商人街、平民街と円状に広がりを見せる大都市だ。

 商人街には様々な店が建ち並び、呼び込みの声が飛び交い、昼夜問わず賑わっている。

 そんな商人街の一角にギルド本部を構えているのが、大輪の花である。


 大きな都市には多くのギルドが乱立しており、大輪の花もそんなギルドの一つ。

 しかし、乱立するギルドの中でもトップに数えられる実力を有するギルドの一つでもある。

 その中でも有名なのが、四名の幹部たち。


 重戦士――ルカ・ラッシュアワー。

 精霊王――アンジェリカ・スターライン。

 拳王――エリリス・リスターナ。

 剣聖――ヴィッジ・ガイズナー。


 四名の実力は折り紙付きであり、大輪の花の活躍も幹部なしでは語れない程だ。

 しかし、その中にギルドマスターであるフェリシアの名前は一切出てこない。

 何故なら、フェリシアはどんな依頼であっても、凶暴な魔獣との戦闘であっても、その姿を現場に見せることはなく、常にギルド本部に詰めているからだ。


『――大輪の花は幹部だけがすごいんだな』

『――ギルマスはクソって話だぜ?』

『――どうして幹部の方々は従っているのかしら?』


 全ての仕事を幹部に任せっきりにしているフェリシアに対しては、良くない噂だけが独り歩きしている。

 そのせいもあるだろうが、大輪の花には幹部目当てで加入を希望する者が多く、ギルドマスターを下に見ている者も同じく多い。

 そのせいもあり、大輪の花に加入することで得られる最大のメリットを得られないまま、見切りをつけてさっさと退団する者が多かった。


「ねえ、ルカー。何で私のスキルについて、秘密にしないといけないのかなー?」

「規格外過ぎるからよ」

「でもでも、本当のことを伝えたら、メンバーも一気に増えるんじゃないかな?」

「それでも効果が現れない者からしたら、嘘でメンバーを集めていると噂を流されるのが関の山だわ」


 ギルド本部にて、フェリシアはルカと二人で昼ご飯を食べている。

 そこで愚痴をこぼすように、フェリシアは疑問を口にしていたのだ。


「でも、それは相手が私を下に見ているからでしょ? 本当のことを知ったら、ちゃんと私を崇拝する者が現れる可能性もあるじゃないのよ!」

「崇拝するかどうかは置いといて、利用しようと考える者が増えるのは確かね」

「……ルカ、冷たい」

「フェリシアが考えなしだからよ」


 二人は幼馴染であり、ギルドマスターと副ギルドマスターでもある。

 気安く会話を交わしながらも、その内容はギルドのことを思っての内容ばかりだ。


「でも、アルカンダリアでもトップギルドと言われている大輪の花のギルドメンバーが、裏方も入れて十名しかいないって、どうかと思うよ?」

「それを私に言われても困るわね。それに、大輪の花は最近になってトップギルドの仲間入りを果たしただけで、他のトップギルドはもっと上にいるからね」

「うー! 私のスキル、マジで燃費悪過ぎだよー!」

「私たちからすると、燃費が良すぎて恐ろしいくらいだけどね」


 先ほどから話に出てきているスキルだが、これは誰しもが神から与えられると言われている特殊能力のことだ。

 一般的に知られている一般スキルから、その人にしかない特別な能力を与えられる固有スキルというものがある。

 フェリシアのスキルは、固有スキルに分類されるものだ。


「私からしたら、燃費悪過ぎなのよ! だって、スキルを持っている私には何一つとして良いことがないんだよ! 意味分かんないよ!」


 フェリシアのスキルの名前は――経験値倍々スキル。

 経験値を得ることでレベルが上がり、その者の能力は一段階上に引き上げられる。

 経験値は様々な経験から得ることができるのだが、一番多く得られるのが魔獣を討伐することだと言われている。

 肉体の成長と共に筋力が付いたり、足が速くなったりもするが、レベルアップには到底敵わない。

 レベル5の大人が、レベル10の子供に喧嘩で負けることだってあるのだ。

 だからこそ、経験値倍々スキルは規格外のスキルと言わざるを得ないのだが……。


「スキル所持者の私には全く経験値が入らなくて、私のことを本当に信頼している者の経験値が4倍になるんだよ!! 意味分かんなくない!?」

「……いえ、十分理解できる内容だと思うけど?」

「そうだけど、そうじゃないんだよー!」

「食事も終わったし、私は仕事に戻ってもいいかしら?」


 ナプキンで口を拭きながら、立ち上がったルカの背中にフェリシアは悲壮な表情を浮かべて手を伸ばす。


「い、行かないで、ルカ~!」

「フェリシアの暇潰しに付き合っていられるほど、私は暇じゃないのよ。じゃあね」


 すげなくフェリシアをあしらったルカは、食器をカートに片付けてさっさと部屋を出て行ってしまった。


「……あぁ……フェ、フェリクス~!」

『……ピー』

「あぁ!? フェリクスまでそっぽを向かないでよ~!」

『……ピ』


 フェリクスにまで見放されてしまったフェリシアは、残ってくれている新人メンバーが自分のことを尊敬してくれることを願うばかりだった。

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