ギルドマスターレベル1 ~経験値倍々スキルで強くなったギルメンに助けてもらってます~
渡琉兎
大輪の花
第1話:プロローグ
「――ねーえー、ルカー」
「何よ、フェリシア?」
「……暇」
「はいはい。フェリシアは本部でジッとしていてよね」
ルカと呼ばれた長身で桃髪の女性は、フェリシアと呼ばれた小柄で銀髪の女性を部屋に残して出て行ってしまう。
その姿を机に突っ伏しながら見つめていたフェリシアは、ドアが閉まるとおでこを机にこすりつけた。
「……ひーまーだーよー!」
誰もいない広い部屋の中でそう叫んでも、当然ながら返事はない。
『ピー!』
と思いきや、人間ではない別の鳴き声が聞こえてきた。
「……フェリクスだけだよー、私の相手をしてくれるのはー!」
「ピッピピー!」
鳥かごの中から鳴いていたのは、見た目が赤い鳥のようなフェリクスと呼ばれた獣魔。
フェリクスはフェリシアに懐いているのか、その瞳をずっとそちらへ向けている。
「おーおー、そうか。私と遊びたいのか。うんうん、鳥かごから出してあげよう!」
椅子から立ち上がり鳥かごの入口を開けると――途端に飛び出してしまった。
「あっ! ちょっと、フェリクス!」
「ピー! ピピー!」
「――失礼いたします、マスター」
そして、タイミングが悪いことに外からドアが開かれると、その隙間からフェリクスは外に出て行ってしまった。
「ああああぁぁっ!? フェ、フェリクスがああああぁぁっ!?」
「……いつものことじゃないですか」
「ひ、酷いよ、アンジェリカ!」
「ヤッホー! 元気にしている、フェリちゃん!」
「エリリス! ちょうどよかったわ! 今からすぐにフェリクスを追い掛けてちょうだい!」
「うーん……無理!」
眼鏡を掛けた黒髪の知的な女性アンジェリカが冷ややかに言い放ち、幼さが残る金髪の少女エリリスは快活に笑う。
フェリシアは二人にジト目を向けながら、再び椅子に腰掛けて話を聞くことにした。
「……はぁ。それで、何かあったのー?」
「また、メンバーが退団しました」
「またあっ!?」
「あっははー! これで何人目になるんだろうねー!」
「……えっと、それじゃあ、誰か残っている人は?」
「メンバーでということであれば、二名だけですね」
「……八名は、加入してくれたよね?」
「はい。ですから、六名は退団しました」
冷静にそう報告されたフェリシアは5秒ほど固まり、ゆっくりとおでこを机にこすりつけた。
「……もう、嫌だよぅ。なんで、みんなさっさと出て行っちゃうんだよぅ」
「まあ、幹部になれないと分かれば、自分のギルドを作るか、別のギルドに移ろうと思うのは普通の思考かと」
「育ててあげようとしているギルドへの恩義はないのかしらねえ!?」
「恩義でお金は稼げないからねー!」
「……ううぅぅぅぅ」
幹部最年少のエリリスからも正論をぶつけられ、フェリシアは何も言えなくなってしまった。
「――失礼します! あっ! やっぱりここだったか、エリリス様!」
そこへ現れた長身痩躯で黒髪の男性ヴィッジが、エリリスを目の前にして鋭い視線を向けた。
「ヴィッジー? エリリスをいじめないでねー?」
「い、いじめてなんていませんよ! ただ、稽古をつけてもらおうと思ってですね!」
「稽古? ……面倒くさーい」
「なあっ!? だったら、アンジェリカ様が――」
「戦闘スタイルが異なりますから辞退いたします」
「えぇっ!? そ、それじゃあ、俺は誰と稽古をすれば!」
「あー、ちなみにルカも別の依頼で外に出てるから、誰もいないわねー。魔獣でも狩ってくれば?」
「……仕方がない、そうします!」
脳筋のヴィッジはすぐに踵を返して部屋を出て行ってしまった。
「……それで、残った二人はどうかな?
「今のところは問題ないかと」
「グレイズが張り切ってるからねー!」
ヴィッジがいたことを忘れようとしているのか、フェリシアは二人からの報告に話題を戻した。
「あまりしごき過ぎないよう、言っておいてねー」
「分かりました」
「それじゃあねー!」
二人も部屋を後にすると、そこには静寂しか残っていなかった。
「……私、これでもギルドマスターなんだけどなぁ」
西の大都市の隅っこにギルド本部を設けているのは、ギルド名――大輪の花。
そんなギルドのギルドマスターであるフェリシア・リクルートは、なかなか集まらないギルドメンバー集めを前に、再度机に突っ伏すのだった。
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