重い答え

ある日のバイト終わりのことである。

次の週のシフトを決める際に「どこでも行けます」なんて言ったのを先輩たちに散々イジられた。

「友達と遊ぶ予定はないのか?サークルは?彼女は?」

「全くお前は寂しいやつだよ」

「本当に大学生?」

もう言いたい放題だ。大人しく黙って聞いていると1人の先輩がとある提案をしてくる。

「ユキちゃんを遊びに誘ったらどうだ?」

「おっそれはいい!」

「そのままついでに告白して付き合ってこい!」

周りの先輩も乗っかりはやしたてる。


ユキちゃんというのは同じ職場で働いている同級生である。学部こそは違うものの大学は同じで、そこそこ仲も良い。控えめに見積もっても可愛い部類に属する人で、それでいて素直でいい子だ。こんな僕とも気軽に話してくれる。

実際に何度か食事に行ったこともあり、遊びに誘うことは無理ないだろう。しかし彼女することは出来ない。


何故なら彼女にはすでに彼氏がいるのだ。


「ダメですって、ユキちゃん彼氏いるし。それに今は稼ぎたいんです」


そう言って騒ぐ先輩たちを受け流す。しかし先輩からは思いも寄らない言葉が飛び出した。


「ユキちゃんなら、2ヶ月前くらいに別れたって言ってたぞ?チャンスだよ!」

そう言ったのだ。その衝撃たるやなんたるものか!周りで騒ぐ先輩方の声も遠く、もう耳には入ってこない。「チャンス」その言葉が胸の深くで何回も鼓動した。


それから少しして彼女とバイトが一緒になった。この帰りにでも遊びに誘おう。そう考えながらバイトをして、気づけば終わりの時間になった。

帰りに自転車置き場まで行くが、そこに彼女の姿も自転車もなかった。先に行ってしまったのだろうか?そう考えながら自転車を出す。店を出て少し行ったところで、彼女の背中が見えた、どうやら歩いてきていたようだ。追いついて横に並び声をかける。

「歩きなんだ、雨でもないのに珍しいね」

「いやぁ、ちょっとね…」

そう言って彼女は恥ずかしそうにはにかむ。いったいどうしたのだろうか。照れながら彼女は言葉を続けた。

「その…重いって言われちゃって…」

そう言った。確かに言った。「重いと言われた」とそう言ったのだ。詰まるところダイエットのために歩いてバイト先まで来たのだろう。だが大切なことはそこではない。

誰に言われたかだ。

「重い」と言うからにはその体重を知る必要がある。そして乙女の体重などは簡単に知ることのできないトップシークレットだ。つまり発言の相手と親しい間柄であることは間違いない。それにその一言に感化されてダイエットを決意するほどだ、家族などの身内ではないのだろう。相手に気に入られるためにダイエットを決意するほどだ。きっと彼女自身も好意を寄せているのだろう。誰だ?いやそれより

男か?女か?

それによって状況は大きく変わる。ここは思い切って聞くべきだろう。ここまでの思考に至るまで1秒もかからなかった。


「誰にそんなこと言われたの?」


私は冗談っぽく聞く。ちょと笑い、からかっている雰囲気を装いながら、心中の焦りを悟られぬ様に慎重に聞いた。


「その……彼氏に………ね」


敗北。対戦ありがとうございました。僕の人生はいつもこんな感じだぁ。いつものことでなれっことはいえくるものがある。

というか別れたのではないのか?先輩に騙された?なんてこった。なんかもうどうでもいいか。

そのあとやけになり色々と質問した結果、分かったことがある。

どうやら別れたのは事実らしい。そのあと最近になって別の彼氏ができたとのことだ。同じ学部に所属するらしい。授業がきっかけであったとかなんとか。

なんだそいつ。誰だ。名前も顔も当然知らなかった。というか早くない!?別れて1ヶ月くらいじゃない?そして付き合ってすぐに体重とかわかるもんなの?「重い」ってさ、何したの?いったいどういう経緯で体重を知ったの!?てか重かったとしてそれ言う?


などとしばらくいろんな考えがグルグルしたが、家に着く頃にはどうでも良くなった。

飯も食わずに寝た。

多分もう一生このままなのだろう、一生冬。もう寒い。

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