「友人A」と「好きだった人」

「ねぇ、自分が死んだらさ、泣くと思う?」


いつも彼女は突然に話を始める。


「誰が?」

「自分が」


そして大抵は意味がわからない。


「自分って、どういうこと?」

「自分が死んだとしてさ、その後に幽霊になって自分の死体を見るんだ。それで「あー、自分死んだのか」ってなった時に涙って出るのかなって」


なるほど。意味はわからないが話は理解できた。


「死に方にも依るとは思うけど、泣かないんじゃないかな」

「死に方にも依るか……突然の事故死とか?」

「衝撃が大きすぎて泣けなそう」

「若くしての病死」

「死ぬまでに覚悟するね」

「愛する人を残したままの死」

「後悔と罪悪感はあるけど、悲しくはないかな」

「誰かを守っての死」

「むしろ笑顔でいける」

「人生に絶望して自殺」

「その頃には涙が枯れてる」

「だめかー」


どうやら彼女は僕を泣かせたいらしい


「そういう君は泣くのかい?」

「うん、泣くよ」

「へぇ、なんで?」

「死んだらさ、走馬灯?見るじゃない。それでさ、生きてた頃の思い出が流れてきて、最後のエンディングのクレジットでさ、「母親  〇〇     友人  〇〇」とかみんなの名前が映るの。きっとそれ見たら、懐かしくて、悲しくて、泣いちゃうな」


 聞いていた話がだいぶ違う。エンディング?クレジット?死後の人生上映会なんて話してたか?それに走馬灯は死ぬ直前に見るんじゃなかったっけ?ダメだ、やっぱ意味がわからない。


「確かにそれはいいな、きっと泣ける。」

「でしょ!よかった!」


何がよかったのだろう。でも彼女が嬉しそうなら、なんでもいいか。


「死んだ時にしっかり泣けるように、いっぱい友達作ろうね!クレジットは豪華な方がいいよ!」

「あぁ、そうだね」

「クレジットはさ、きっと親しい人から順番に流れるだろうね、映画もそんな感じだし」

「確かに」

「最後の方は誰のことだかわからなくなって飽きそう」


そう言って彼女は笑う。豪華な方が良いのでは無かったのか?その言葉を飲み込む。


「君のクレジットに僕のなまえはあるのかい?」


何気ない好奇心だった。つい聞いてしまった。


「もっちろん!君は仲良しだからね、きっと早い登場だよ!「友人『A』」トップバッターだ!」


笑顔で彼女はそう答えた。全然トップではない。

なんだか泣きたくなってきた。それこそ死んでしまいたくなるが、そんな馬鹿なことはしない。まだ、早いだろう。

きっと将来、もっと素敵なことが待っていることに希望を持って生きよう。

彼女が、僕の思い出の存在にならないことを祈る。

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