夢現・失恋短編集
@Hisa-Kado
22時の現実
大学生になったが、「キャンパスライフ」なんてものには青春なんてあるはずがなかった。
そのようなものに夢を見ていいのは高校生までなのだろう。
大学は高校と違っておおよそ「クラス」と呼べるものがない。1コマの講義で100人以上が受けることもあるし、講義ごとに人も教室も席も何もかもが違う。そんな状況では彼女はおろか友人ですら満足に作ることができず、気づけば1年が経過していた。
サークルに入れば何か変わるのかもしれないが、2年からサークルに入るのはなんというか躊躇われる。そもそも、そんな社交的なことが出来ていれば初めからこうはなっていない。極め付けに今年は感染症の影響でオンライン講義だ。必然的に孤独が加速していった。
夏、20歳になった夜、久しぶりに家を出た。思えば一人きりで過ごす誕生日というものは人生初で、柄にもなく人恋しくなっていた。
みな外出自粛しているのだろうかだろうか、夜道には誰もいない。誰かいたとして私の誕生日を祝ってくれるわけではないのだが。
川を登り橋から遠くの街を眺めていると、去年の誕生日が思い出された。田舎に一人暮らしをしている私の家まで友人が押しかけ、夜通し話をしたのだ。思えばあれは人生で一番はしゃいだ誕生日だったかもしれない。
「だから、高校生活の青春なんて嘘なんだって!キャンパスライフなんて夢のまた夢!」
夜中でテンションの高くなった友人がそう告げる
「だよなぁ、文化祭デートで2人こっそり抜け出すとか。校門で先生が張ってるしな。」
「制服放課後テーマパークデート。そんな近くにテーマパークがない。」
「クリスマスのおうちデート」
「浴衣でお祭り花火デート」
「2人きりで年越し」
「意味もなく夜の街をぶらぶら」
「水族館デート」
「いや、それはあり得るだろ」
なんということだ、突然の裏切りに動揺が隠せない。すかさずこちらも反撃する。
「いーや。ありえないね!大体、水族館デートがありえるなら夏祭りデートだってありえるだろ!」
「確かに、言えてるわ。結局あんなものは物語の中だけの話で実在しないってわけ」
意外とあっさり負けを認めた。まぁこいつも私と同様で高校生活において青春と呼ばれるものに触れずに育ってきたのだ。そんなものが現実にないことは理解しているのだろう。
そんな話を夜通し続けた去年の誕生日を思い出した。去年のことだが懐かしい。
懐かしいついでに、昔のみんなが今何をしているのかが気になった。高校の友達は皆、大学へ行っているはずだが中学の頃の友達はそうもいかないだろう。就職、専門、短大、様々な進路が期待できる。
勢いのまま今流行りのSNSをダウンロードする。なんだか眩しくて映え輝いているやつだ。
早速アカウントを作りいくつか名前を検索してみる。鍵によって見ることが出来ないものがほとんどのであるが、いくつか公開されているものもある。そこに映る昔の知り合いは顔こそは面影があるものの、髪を染めたり、ピアスを開けていたり、昔とはだいぶ印象が変わっていた。
そうして昔の仲間を見ながら懐かしんでいると、1人の女の子の存在が浮かんできた。
その女の子とは私の初恋の相手である。小学校3年生の頃から中学生3年の終わりまで、実に6年間も思い続けていた相手だ。当然、今どうしているのか気になる。
彼女は私と同じで友達があまり多くなかった。だからこそ仲良くなれたわけだが。
もしかするとこのSNS はやっていないのではないだろうか?
そんな気がする。なんというか、彼女は私と同じ穴のムジナというか、同族だろうという期待があった。
ダメ元で検索してみると、なんとヒットした。鍵もかかっていない。
そのアカウントのアイコンは彼女自身の笑顔の写真であった。違和感。こんなことをするような子ではなかったと思う。
少なくともここで引き返すべきであった。
彼女のアカウントのページまでいくと、いくつか写真が投稿されていた。
友人との旅行、飼っている犬、様々な写真があるが、その大部分は、彼氏との思い出のものであった。
なんということだ!悪い夢でも見ているような気分である。これが本当に現実であることを確かめるかのように、その写真を眺める。
体育祭の後の写真、文化祭で恥ずかしそうに手を繋いでいる写真、制服で楽しそうに映るテーマパークでの写真、静かな水族館で水槽を眺める写真、浴衣で手を繋いでいる写真、クリスマスのイルミネーションと共に写る写真、初詣の写真、お泊まりデートでコンビニに買い出しに行っている写真、旅行の写真、互いの家に遊びに行っている写真。プールで楽しむ写真、ハグしている写真、卒業式の写真、記念日を祝う写真、ドライブデートの写真、そのどれもが幸せそうである。
やはりこれは夢だ。改めてそう思った。あろうことか、去年の誕生日に「そんなものは現実にない」と笑い飛ばした数々のものが、現実として目の前にある。
それも写るのは私の初恋の相手だ。小学校では互いに友達が少なく、席が隣になったことがきっかけで仲良くなり、中学に入ってからもよく遊び、6年間の想いを遂に伝えることなくサヨナラした、その相手だ。
何がこんなにも道を分けたのだろう。入った高校か?それとも運か?一切何もわからない。今は何も考えたくなかった。
心ここに在らずで家へと帰る。先程ダウンロードしたアプリをアンインストールする。そのまま寝ることにした。
幸い、世間は外出自粛だ。しばらくは誰にも会わずに過ごすことができるだろう。もう、誰にも会いたくない。
目が覚めたら全部夢であってほしい。こんな誕生日もこれまでの人生も。
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