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シンを引きずるようにして訓練を突破したリンカ。

血と汗に塗れている。

再び通路に入ると大人たちが待っていた。

執行官を連れた見慣れない格好をした男。

攻撃の意思はないようだ。

「シェルター37、適正者は1人のはずだが?それは生きているのか?」

動かないシンを指差し、男が執行官に確認させる。

乱暴にリンカからシンを奪い、執行官が異物でも扱うように男の前に置いた。

「まだ生きています、治療しますか?」

執行官の問いに男は答えない。

リンカを値踏みしている。本来選別され適正を試されるのはリンカだけのはずだったが、シンが混ざってしまった。

「治療、対象者と共に隔離」

男の言葉で執行官がシンを抱えて動き出した。

リンカも後に続くように促され、男が背中を見送る。

リンカが通されたのは狭い通路である。

シンとは別れさせられ、いくつもの小部屋に隔離された異様な場所に通された。

外側からロックされ、出ることはできない。

壁には見たことのない都市が映し出されている。

生きている壁面モニターを見るのは初めてのことだったが、リンカにはわかった。

超高層ビルと人の群れ、澄みきった空と空気。

空中都市の映像だ。

次々と切り変わる映像に字幕による詳細な情報が加えられている。

そこで知ることができたのは、空中都市に住むことができれば一生困ることはないということ。

そして、等級のない市民には次に訪れると噂される第三次世界転生から逃れるすべはないこと。

二度の世界転生によって日本だけではなく世界が混乱に包まれた。

突然消失した人々と、おびただしい数の魔物の襲来。

第一次世界転生の3年後に、奇跡的に向こう側から帰還した一握りの人々が情報と、幾らかの資源を持ち帰った。

その中の一つにあったのが魔道書と呼ばれる未解明の本であったという。

リンカの父親は元二等市民であり、空中都市で生活をしていたことがあった。

それらの経験から可能な限りの知識を共有し、多くの地上の民に教育を続けていた。

疑ってはいなかったが、リンカが父から教わってきたことが事実であることが壁面モニターによって証明される。

人類の世界転生に対して打ち出した対策と結果。

魔道書によりもたらされた超科学と崩れ去ったミリタリーバランス。

日本が世界から離脱して市民に等級をつけている理由。

残酷すぎるが、どうしようもない事実が流れて行く。

知りたくもない見たくない光景が消えない。

魔獣と人の交配実験。

魔獣と人の合成実験。

様々な人の業がリンカの心を抉る。

けれど知らなければいけないのだ。これから先に進むには、生き残るには情報から目を逸らしてはいけないのだ。

高度に栄養を圧縮された固形物、それにビニールに包まれた水が提供された。

幾日か壁面モニターを見せられたリンカは、シンが殺されたのではないかと疑念を抱いたが、それは杞憂に終わった。

リンカと同じように清潔な服に着替えさせられたシンが部屋に訪れたのだ。

「生きてたんだ!!」

リンカが言いながらシンに抱きつく。

シンの表情は険しく、せっかく親しくなれたリンカに別れを告げるつもりだった。


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