原始武器

動物の残骸から骨をぬき、木に叩きつけて骨の折ることができた。

次にリンカとシンは石を集めた。

「小石を一体どうするの?石斧を作るならもっと大きい石の方が良いでしょう?」

不思議そうにするリンカが言う。

だが小石にはいくつかの使い方がある。

「リンカ靴下を脱いで」

シンの突然の靴下という言葉に唖然とするも、考える余裕はない。

空を飛べるハーピーならいつ飛来してもおかしくはないのだ。

差し出された靴下に石を詰めてシンが振り回して見せた。

「何それ!?」

驚くリンカ。簡単に武器は作ることができる。

まして近接武器で敵が大型でなければこの程度でも十分に殺傷可能なのだ。

続いて動物の残骸の頭部にある角を折り、骨を抜いた時に付着していた腱を縛る。

リンカもこれはわかった。

「スリングショット」

本来は鳥やネズミなどの小動物用ではあるが、遠距離武器の有無で狩は大きく変わる。

投槍やキラースティック、ブーメランなどよりは扱い易い原始武器である。

また筋力のない女の子が魔物と接近戦を行うのはリスクが大きい。

短時間で用意できたのは骨のナイフ2本とスリングショット1、それと靴下を利用したブラックジャック1。

スリングショットと骨のナイフを一本リンカに渡してシンは作戦を説明する。

ハーピーとゴブリンが共闘関係にあるのかはわからないが、引き離すために木々の密集地隊で戦うべきだと提案する。

また、向こうはこちらの数を知らない。誘き出して武器を装備したゴブリンを優先して狙う。

ハーピーは最後に相手をするというのがシンの作戦だ。

このまま身を潜めるというリンカの提案もあったが、これは訓練なのだからより良い結果を狙うべきだとリンカもシンに納得させられた。

茂みに入り音を立てぬように移動を始める2人。

ハーピーは背を向けてゴブリンから離れている。

ゴブリンたちが手にしているのは棍棒が大半で、用意された武器は少なかったことがわかる。

手斧と槍、そしてナイフと確認できない短い筒のような物。

まともに飛び出せばゴブリン数体を倒せれば良い方だ。

ゴブリンが少しづつ動いている。ハーピーも空腹なのか残骸の方へと飛び立った。

体感ではすでに半刻は過ぎている。やるしかない。

身を隠していたシンが茂みから飛び出した。

背を向けているゴブリン、にブラックジャックを叩きつけた。

勢いの乗った一撃でゴブリンは頭部を陥没させた。

距離が離れていた残り6体のゴブリンが異変を察知、ブラックジャックは衝撃で裂け使い物にならない。

突然のできごとに頭部から鮮血を流すゴブリンは振り向くも反撃の余力はない。

確実に倒すためにシンは拳を首に叩き込み、そいつが手にしていた手斧を奪い首を刎ねた。

ゴブリン達が叫び声をあげてシンに迫る。

もう奇襲ではない。

シンはリンカの方へと背を向けて逃走する。

手斧を奪ったことで可能背が広がった。

ゴブリンの足は速くない。シンが小さいからといって捕まるほどでもないがわざと遅く走り、棍棒で追いかけるゴブリンを振り向きざまに攻撃する。

頭部を外したが、手斧が型に深く食いついた。

膝を着いて崩れるゴブリンを蹴り飛ばし、さらに棍棒を奪うことに成功した。

ナイフや棍棒の間合いでは、小柄なゴブリンには厳しい状況だ。

けれど魔物であるゴブリンは狡猾に囲みに入ろうとする。

当然シンは包囲されぬように逃走する。

そこに筒を持ったゴブリンが奇声をあげそれを使用した。

短い筒のような武器は、バレルを短くしたショットガン。

ソードオフショットガンだったのだ。

バレルが短くしてあったことで銃器であることを見逃してしまったが、飛び出した銃弾は扇状に広がり殺傷範囲はあったが、威力に欠けた。

だが、不意に放たれた一撃はシンの体にも命中した。

焼けるような痛みがあったが、シンは止まらない。

もう一撃放とうとするゴブリン、仲間も怯えて距離を離した。

突然の銃声と科学の力に戸惑っているのだ。

リンカのスリングショットがゴブリンの顔に命中しショットガンが手から離れ落下の衝撃で暴発する。

その隙にリンカはシンと合流して棍棒を受け取った。

残り時間は10分もあるかどうか怪しい。

動けるゴブリンは2匹だけでショットガンの弾も装填されていないようだ。

ゴブリンの知能では弾薬の概念までは至ってはいないようだ。

槍とナイフを持ったゴブリンが2人を追ってくる。

木々の密集する場所で迎え撃つ必要がある。

槍を躱すのには盾または遮蔽物が有効なのだ。

槍の懐に飛び込んだり、切断するということはおよそ現実的ではない。

スリングショットの攻撃はもう効果的ではない。

一撃で倒す殺傷力がないのだ。リンカはゴブリン達の手作りであろう棍棒に運命を託すことになる。

まだ容易に手に入る鉄パイプの方が現実的な武器といえた。

手斧と槍。圧倒的なリーチの差がある。遮蔽物のない空間ならシンの体格なら攻め負ける。

今回は偶然木があり、視界を遮る茂みがあった。

だが出血を始めたシンの意識は薄れつつある。

リンカの棍棒は雑ではあったがナイフ持ちのゴブリンをシンから離している。

ゴブリンの使う槍は動きこそ雑だが、シンを追い詰める手斧では届かない。

木や茂みを利用して回避するも長くは持たない。

よってシンは賭けに出る。

手斧を投げたのだ。槍を使うゴブリンの頬を掠め手斧が捉えたのは、リンカの相対しているゴブリンの背中であった。

想定外の結果にリンカもゴブリン達も動きがとまった。

瞬間ではあったが、リンカが崩れるゴブリンの後頭部を叩くと槍が素手となったシンの顔面へ深く襲いかかった。

身を低くして肩でシンがゴブリンを転倒させることに成功した。

槍を離さないつもりのゴブリンだったがシンが馬乗りになると逆に槍が邪魔でしかなかった。

骨のナイフが喉を塞いだ。シンが手斧を手放した瞬間、油断が生まれて倒すことができた。

けれどもうシンに体力は残されていなかった。

ブザーが鳴り、訓練終了のアナウンスが流れた。

だが羽音が2人に接近している。

ハーピーがゴブリンの死臭に釣られて戻ってきたのだ。

(武器を放棄してください)

引き抜いた槍を構えたリンカが戸惑う。

「でもまだ向こうはヤル気だよ!!」

シンは強引に槍を奪って捨てさせる。ハーピーも恐ろしい相手だが執行官が本気になればそれ以上の恐怖だ。

上から迫る羽音から逃げる2人。今度はリンカが肩を貸して逃げることになる。

朦朧とした意識の中で、シンはリンカの横顔を見ていた。



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