シェルター37
リンカの手を握り走り続けるシン。
別れ道もなく、潜り込めそうなハッチもない。
運動性を強化された執行者の足からいつまでも逃げ切れないことは経験で知っている。
焦りからか、リンカがもう限界であることをシンはきづいていない。
「待って!!もう走れない!君は先に行ってもういいよ...」
パルスライフルの銃声は聞こえない。恐怖に身を震わせながらもシンは、リンカを置いて行こうとはしなかった。
「このまま逃げても無駄かもしれない、行き止まりかもしれない。でも諦めたくない。
今日、この瞬間だけでいい、全力を出すんだ」
シンの呼吸も激しく乱れていたが、騙し討ちを受けても心は折れてはいない。
リンカは重くなった両足にもう一度力を込め、走り出す。
視界の端に何かが見える。
リンカを呼び止めて立ち止まるシン。
「この文字の意味がわかる?僕は字が読めない」
壁に小さく記された文字は世界共通語として流通した当時の言語だった。
「生物的な危険地帯。そう書いてあるけど、意味はわからないよ」
リンカの知識で先にも危険がある事を知れたが、互いに手ぶらで辺りにも武器になりそうな物など鉄パイプ一本落ちてはいない。
2人の行き着いた先には農場プラントのような広い空間があり、土と木々が茂っている。
土には多少の湿り気があり、管理された空間であるとわかる。
「何かいる」
リンカが身を屈めてシンに知らせた。リンカも東京区で生き抜いただけあって動きは洗練されている。
騙し討ちでなければ、きっともっと多くの者がここにたどり着いたはずだった。
シンは木陰に入り聞き耳をたてる。
リンカの視線の先には鹿のような大きな動物の残骸がある。
まだ腐敗しておらず、血が土に吸われてもいない。
アレを狩り捕食した動物がいるとすれば肉食の大型生物、または群れではないかとシンは考えを巡らせた。
どちらにしても匂いで位置がバレている可能性が高い。
狩の経験豊富なシンは先に進んで逃げるか、一度下がって全体を把握するか決めかねている。
ブザーが突然鳴り、2人の退路が閉ざされてしまう。
重いしっかりとした音だ。
続いて音声が天井から発せられた。
(戦闘訓練レベル3を実行。成功条件は対象の討伐、または1時間の生存。
ステージ中央に使用可能な武器を設置、訓練終了後は武器を放棄してください)
一方的な機械音声であったが、重要な単語は武器。
中央といってもかなりの広さがある。
リンカは動物の残骸に近づいて痕跡を探しはじめる。
辺りに毛や爪痕のような物はない、足跡もない。
おかしい。
リンカが声を抑えてシンに伝える。
「普通の動物じゃない。魔物の可能性があるよ」
魔物。第二次異世界転生が起こった際に、こちらに送り込まれた生命体の総称である。
それらは空想上の魔物そのものであり、多くの疫病と害獣被害を人類にもたらした。
これに人類は兵器と身体強化によって対処し50年をかけて大半を駆逐した。
だが日本全土に強力な魔物はいくらか残り、執行官の配置された東京区にも存在する。
そこは代々木大森林と呼ばれる廃棄区画で、汚染濃度も高く寄りつく人間はいない。
一握りの狩を主とした者たちを除いて。
草むらや木々があり全体を見通すことができない。
それに素手で魔獣や大型の獣と遭遇すれば戦えない。
シンは音を殺して木に登り始めた。
かなりの高さを持った天井で、それに迫るほどの背丈の木だ。
全体を把握できる。
手際のいい動きを見て、リンカはシンが狩に精通している事を知る。
小柄ではあるが、狩は戦闘とは違う。一方的な奇襲で決するものだ、目立たない小柄な体も使いようがあった。
「ハーピー1。ゴブリン7」
シンが覚えるように呟いた。そして、装備と指定された物がすでに中央に配置されているのを確認したが遅かった。
ゴブリンが先にそれらを発見して物色しているのだ。
単体であるならまだ勝算はある。
けれど素手では武器を手にしたゴブリンには勝てない。
シンは急いで木を降りてリンカに伝える。
武器は作らなければならないことを。
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