第三次世界転生

karasu//

東京区地上非管理区域

降り続いた雨が止み、廃墟と化した都市に朝が訪れる。

主要都市の大半がそうであるように、地上には等級の低い下層市民と市民等級を持たない者が彷徨う。

超高層ビルのさらに上、空中都市には飢えや疫病とは無縁の生活を保障された二級市民たちが存在する。

最低限の食料と医療品を目的に、下層市民たちは廃墟と化したかつての首都東京区を探索する。

多くのレアメタルや宝石の類は撮り尽くされ、死体から銀歯を抜くことも珍しくはない。

当然、治安というものも曖昧で大人達が組織的に弱い女、子ども老人を襲うこともある。

選別過程の訓練学校での成績が良ければ、適正者として市民権が与えられるのだが、100人に1人も二等市民は生まれなかった。

三等市民権でもあればまだ人権を保有できるのだが、市民等級を獲得できない成績不良の子ども達は大人達から搾取されるだけである。

それは東京区だけの問題ではなく、日本全土が第二次世界転生後から開始したシステムである。

日本は一等市民の決定により鎖国。

情報網の切断により世界との繋がりを持たない。

それでいて人口は安定し、国家としての機能は損なわれていない。

もちろん等級によって大幅な格差があり、見える景色も口に入れる物も大きく異なる。

都市を巡回する執行官が集結し、今年度の訓練校入学者がシェルター37に集められた。

疫病に感染していない少年少女達50人だ。

執行官は肩から大きなパルスライフルを提げ、昼夜を問わず見通すことのできるヘッドギアを装着し、最先端の形状記憶アーマーを纏っている。

システムに反逆する者には躊躇のない殲滅が用意されているのだ。

時折、発見される旧時代の武器が凶器となって執行官を狙うが、倒された執行官の記録はない。

死神と蔑視される執行官が守るのは市民権保有者だけ、集められた少年少女達は今は保護対象である。

シェルター37の入り口は強固な鋼鉄のゲートであり、執行官でも開けることができない。

年に一度の選定式にわずかな時間だけだ。

規則正しく列をなし、口を開く者はいない。

ゲーが開くと清潔な人工物の臭いがした。

両親ともに三等級のシン。他の少年達に比べると小柄であり、特に優れた能力もなく栄養状態も悪い。

すぐ前を歩くリンカという少女と背は変わらない。

最後尾を歩かされるシンはゆっくりと閉まるゲートを振り返った。

少し距離を置いて歩いてくる執行官達のパルスライフルの銃口が自分達に向けられていることにきがつく。

絞られるトリガー。空を引き裂くパルスライフルの無機質な銃声が鳴り響いた。

その場に伏せるのではなく逃げなければならない。

遮蔽物のない狭く長い通路。

一方的な虐殺が行われる。まだ選別も前だというのに銃撃され恐慌状態に陥る者は立ち竦み、屠殺されるのを待つ形となった。

伏せた者とすでに死体となった者は障害物となり、次々と殺されて行く。

50人が狙われるのと1人が狙われるのは違うのだ。

今は運に任せて少しでも執行官から離れる必要がある。

動けないリンカの手を取ってシンは走り出していた。

誰かや何かを守ることに意味があるのかはわからないが、彼の両親がそうしてシンの前で死んだように、彼もそうすべきだと判断したのだ。

シェルター37の訓練過程が開始された。




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