第5話
新月の日。私は慣れた足取りで夜の学校へと向かう。
......だけどその日、待っても待っても、拓人くんが現れることはなかった。
一体どうしたんだろう。約束をすっぽかすような人にはどうしても見えない。
でも連絡先知らないから連絡手段もないし、惜しくもその日は一人で新月を眺めて帰った。彼のことは名前とそれから月が好きなことくらいしか知らない。
だからもっと彼のことを知りたくなる。
彼と会わなくなってから数日経った朝、起きるとなんだか怠い。
もしかして風邪かな。仕方なく私は学校を休み、病院へ行くことにした。
「風邪ですね。薬を処方しておくのでこれを飲んでちゃんと休んでください。」
医者からそう言われ、病院から近くの薬局へ向かう途中のことだった。
「拓人お兄ちゃん!遊ぼー!」
近くの方から男の子の声が聞こえてくる。でも、拓人って...もしかして。
「ごめんね。今、あまり動けなくて...」
男の子とその拓人って子の顔が見えるように傍に行ってみる。
「........え、嘘」
拓人っていうのは、やっぱり私が出会ったあの拓人くん。
でも、腕には点滴の管が通っており、前に会ったときよりも明らかに痩せている。入院してるの...?自分の心拍が上昇していくのがよく分かる。
「あ、いたいた。拓人くん検査の時間よ」
「今行きます」
看護師さんが拓人くんを呼んで、そのまま拓人くんは看護師さんに連れて行かれた。さっき拓人くんと話してた男の子はその場で立ち竦んでいる。私は意を決してその男の子に拓人くんのことを聞いてみる。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
「あの、ちょっと聞きたいんだけど。さっきの拓人くんってどうして入院してるか分かる?」
その男の子は少し考えてこう答えた。
「僕、小さいからよく分からないんだけど、がん?って看護師さんが言ってた気がする!」
癌.......。
だからあんなに痩せてたの...
このとき、不思議に思ってたことがパズルのようにピースが埋まっていく気がした。心は新月のように中身は真っ暗だ。
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