第30話 救うと決意する俺

 志保先輩が連れて行かれてから1週間が経った。時間が経つにつれて志保先輩への想いも薄れていき、今までの慌ただしかった日常が昔のように静けさを取り戻していた。


 こうやって人は成長していくのかと思った。


 いや、そんなことで忘れられたらどんだけ楽だったのだろうか。


 薄れるなんかなくて、居なくなった反動の方が大きかった。けど、自分には何もできない。だけど救いたい。

 1番は志保先輩の為なんかじゃなくて、俺が嫌だったからだと思う。そんな自分勝手な思いを抱いて、そして向かった先は志保先輩が連れて行かれたであろう、三島家だった。






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「でけぇ……」


 三島財閥の令嬢なのは知っていたが、家を目の当たりにすると、やっぱりお金持ちなんだなって実感した。

 そして痛感した。やっぱり俺と志保先輩だと身分が違い過ぎて釣り合わないことを。もし、この家に侵入できたとしても、結局捕まってしまう。今度は警察沙汰になって、両親にも迷惑かけてしまう月末になるだろう。


「くっ……」


 そのまま俯きながら帰るしか出来なかった。俺にはこの目の前の壁は大き過ぎた。1人でなんか登れっこない。潔く諦める他に選択肢なんてないんだ。






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 家に着くと、母さんが待っていた。俺の変化に気がついて、どうしたの? って優しく話しかけてくれて、その優しさにぶちまける様に全てを吐き出した。

 志保先輩のことも、抱いていた想いも、そして力なく断念したことも、救えない無力な自分のことも。


「優一は、どうしたい?」

「…………」

「今の優一のこと、きっと志保ちゃんも嫌いだと思うよ」

「え……?」

「金持ちだからとか釣り合わないからとかって変な拘りで括らない、志保ちゃんを志保ちゃんとして見てくれる優一だから、志保ちゃんも着いてきたのよ」

「…………」

「優一はどうしたいの? これで終わり? 志保ちゃんと本当にお別れでいいの?」

「……良くない」

「なら、どうするの?」

「救い……たい……」

「なら、救ってきなさい」

「え……?」

「生き様で後悔することは、しちゃダメよ。今までも、これからも」


 母さんの言葉で、救われたものがあった。消えかけていた灯火にまた火が灯り、志保先輩を救うって気持ちで溢れて返っていく。


「母さん。俺……頑張るよ」

「頑張りなさい。私もまた志保ちゃんに会いたいから」

「うん。生き様では後悔しない、絶対に」


 志保先輩ともう一度会う為に、俺は俺のできることをするんだ。






 ▼






「いや、アタシに言われても……」

「何でもいいんだよ。なんか案無い? 流石に無闇に突っ込んでも意味ないじゃん?」

「自分で考えなよ。ってかアタシを巻き込まないでよ」

「白瀬さ〜ん……」


 黒井家の白瀬さんとの作戦会議。っとは言っても何も決まっていない状況だけど。忠告してくれた白瀬ならなんか良い案があるかなって思ったけど、そんなことはなかった。


「あ、そー言えばお付きみたいな人達。その人のこと同情してたよ」

「志保先輩を?」

「可哀想だって」

「可哀想、か」


 なら尚更助けてあげないとって使命感が出てくる。とりあえずもうしばらく白瀬に相談しながら、確実に志保先輩を救える方法を模索する必要があった。




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《令和コソコソ噂話》


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