第21話 パンツ、見せてもらってもいいですか?
志保先輩が居なくなった。
なぜ居なくなったかは分からない。俺如きが志保先輩の思考が分かるはずがない。分かるはずがないから居場所だって特定できない。
今頃お腹を空かせているんじゃないか、宛のない道を一人で彷徨ってるんじゃないか、受け入れることのできない相手を夢中になって探している自分がいた。
これはきっと恋心なんだ。居なくなって寂しく感じて、胸が張り裂けそうで、名前を呼びたくて仕方がなくなる。自分が靴を履いていないことにも全然気づかないぐらい俺は動揺していた。
志保先輩が居なくなっただけ。ただそれだけなのに世界が真っ暗に見えて仕方がなかった。
1週間後に遊園地に行くと決めたはずなのに、残されたチケットをクシャクシャになるまで握りしめて、無我夢中にその後ろ姿を探していた。
いくら探しても出会えない。街中探しても俺が追い求める後ろ姿は見つからない。息ができない、苦しい、だけど止まりたくない。ここで歩みを止めてしまったら……もう二度と志保先輩に会えない気がしたから。
一日中探し回っても志保先輩は見つからなかった。擦り切れてるけど痛みすら感じない足を無理矢理に動かしながらパン屋に戻る。
誰も待っていないパン屋へ戻る。
志保先輩の居ないパン屋へと戻る。
「おかえり。こんな遅くまでどこへ行ってたの?」
「へ……?」
「え? その足どうしたのよ? なんでそんなに傷ついてるの?」
その姿を見て、その声を聞いて、込み上げてくるものがあった。もしかしてこれは夢なのだろうか? 妄想なのだろうか? 分からない、俺には分からないけど、涙が溢れ出て止まらなかった。
「ちょっとなんで泣いてるのよ? 何があったのよ?」
そのまま志保先輩に抱きついた。優しい温もり、温かい温もりを感じた。お風呂上がりなのかほんのりトリートメントの良い香りがして、それがたまらなく愛おしかった。
泣きじゃくる俺に対して志保先輩はため息をつきながら、優しく俺の頭を撫でてくれた。とても気持ちよく癒されて、落ち着いた。
「お風呂上がりだし、あまり汚して欲しくないのだけど?」
「ごめんなさい……」
「で、どうしてそんなにボロボロで泣いているの?」
「……朝起きた時に志保先輩が居なくて……服とか荷物も何にも無くて……俺の前から居なくなったと思って……」
「片付けただけよ。出しっぱなしはだらしないからしまっただけよ」
「……そうだったんですね」
「あとは朝一で学校に行ってたのよ。大した用ではないけど、それを言ってなかった私にも非があるわね。ごめんなさい」
「いえ……俺の勘違いなので……」
「ふふふ、キミも可愛い所あるのね」
そう言って志保先輩は強めに抱きしめてくれた。
パンツを見せてくれるわけでもなく、ブラジャーを見せてくれるわけでもなく、ただ俺が今1番欲してることを悟って実行してくれていた。
それがなによりも嬉しかった。
志保先輩はどこにも行ってなかった。俺の勘違いだったけど、勘違いで良かったと心の底から思えた。
沁みる足の怪我に耐えながらお風呂に入って汚れを落とし、志保先輩が俺の足の怪我を治癒してくれた。
「一旦はこれでいいわ。でも明日はちゃんと病院に行きなさい」
「分かりました」
「ふう、もう遅いから寝ましょう」
「あ、志保先輩」
「なに?」
「わがままを1つ、言ってもいいですか?」
「何かしら?」
「パンツ、見せてもらってもいいですか?」
俺の言葉に志保先輩は目をまん丸に見開いていて、そしてどこか嬉しそうに微笑んで——
「だーめ!」
イタズラにそう笑って、俺の頬に優しくキスをした。
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【あとがき】
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます!
そしてここまで読んでいただきありがとうございました!
第一章が無事に終わり、これからは第二章の始まりです!
優一に出会って変わる志保先輩と、志保に出会って変わる優一、お互いの成長のいく末をこれからも見守って頂けると幸いです……!
感想や評価、コメント付きレビューもどしどし待っているので、よろしくお願いします!
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