異世界転生した薬屋が麻薬王になるまでの話(仮)

succeed1224

第1話 浮世さらば その1

俺の名前は、唐柴 蓮(からしば れん)、薬剤師だ。

体調絶不調の最中、上司に半ば強引に介護施設への薬の配達を命じれらたところ、見事にトラックと正面衝突した。

トラックのハイビームライトが俺の視界を白く焼く。


好きな女もいた、仕事も気に入っていた、稼ぎだって悪くない。


でも、俺は死んだ。



「唐柴さーん、唐柴蓮さーん。」


聞き覚えのある声に呼ばれて、俺は意識を取り戻す。


俺はソファに座っていた。

体はどこも痛くないが、頭が痛い。


周囲には何もないが、眼前には俺の職場の投薬カウンターがある。


どうやら薬局の待合室のつもりらしい。

それにしては俺といけ好かない顔の薬剤師しかいないし、ひどく殺風景だが。


「お待たせしました、どうぞこちらへ。」


いけすかない、見覚えのある顔の男が俺を呼ぶ。

普段は俺もカウンターの向こう側で患者を呼ぶ仕事をしている訳だが、今回は逆ということらしい。


「ここ、どこですか?」

「それはどうでもいいじゃないですか。」

受け答えもいけ好かない。完成度は高いが、一点明確に違うところがある。

「あんた誰よ?俺の上司の姿してるけど、うちの上司はそんなに綺麗な目はしてないぜ。」

そいつの目には、黒い真珠みたいなものが填まっていた。黒目がち、ではなく、眼球全面が黒い。

「お褒めにあずかり光栄だね。確かに、僕は君の上司ではない。」

そういうと彼は俺をカウンターに促す。


そこには、うちの会社のレイアウト通りの仕様で薬が3つ並んでいた。

用法は3つとも「頓服 死亡時」。

「早速だけど、君には3つの選択肢がある。」

ひとつ、と言って俺の上司の姿をした何かが、俺から見て右側の薬を指差した。真っ赤なカプセルが1錠入っている。


「これを飲むと君は地獄に落ちます。」

飄々とした笑顔で言ってのける。

「ははは、のっけから随分だな。」

思わず俺も破顔してしまった。

「邪淫の罪を犯したからね。同時期に複数の女性と関係を持ったことに、心当たりがあるんじゃないかい?」

破顔したまま、顔がひきつる。図星だった。

「無いとは言えねぇ。てか、多分誤魔化しても無駄なんだろう。ひとつ誤解の無い様に言えば、俺はどの娘とも添い遂げるつもりがあったんだ。向こうが俺を選んでくれなかったのさ。」

気を取り直して、というか開き直ったが、さて通じたものか。

「まぁ、それが嘘でないことは知ってる。だから君には選択肢があるんだよ。」

そう言って彼は真ん中の薬を指差した。

中には青い粉薬が入っている。


「こっちを飲んだら、君は天国へ行ける。」

「願ってもない、というかそれ実質一択じゃないか?」

「メタンフェタミンだけど、いい?」

「覚醒剤じゃねぇか!それ天国の意味違うし、実質地獄行きだろ。」

「ふふふ、メタンフェタミンは冗談、けど本当に天国に行くチャンスが手に入るよ。」

「チャンスってのは?」

「単純さ、これを飲んで、君が天国への扉を開くか、無に帰るかの運試しだよ。」

「無に帰るって?」

「文字通り、君は消滅する。」

消滅、その言葉に俺は眉をひそめ、ひらひらと手で空を払う。

「さっきの薬で地獄行きって言われた時点で、自分が消滅する未来しか見えねぇよ。いろんな意味で論外だ。」


リスクと薬効を対比するのは薬物治療の基本だ、医師が処方箋を切る現代において、薬剤師である自分に決定権があることは稀だが。


神は自らを救済する者を救済すると言うが、どうやらそれはこの青い薬の事ではないらしい。

「最後のひとつは?」

俺は自分から、白い錠剤を指差した。



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