Substory1 肉体と幽体
死んでから目を覚まし現世に行く途中。まだ死神にはなってない頃の話。
死んだ人間は死後、必要があれば幽体として働くらしい。
死神以外の職の例として何があるかは疑問だが、死後働くというのは変わらないらしい。
そうなると一つの疑問が湧いてきた。
「しょうもない質問なんだけど、いい?」
「構いませんよ。」
「今の僕の体ってどうなってる? 死んでそのままの体って訳じゃないだろうけど……そもそもこれって体って呼んでいいの?」
死後に働くという話を聞いて、僕の高校2年生で成長が止まっているであろう脳みそが考えたのはくだらない例えばの話。
例えば、死体の四肢が一部欠損、あるいは全てバラバラになっていたら。
例えば、死体が何かしらの生物に捕食される等で原型を留めていなかったら。
具体例が二つ出た。つまり体の原型が留まっていない場合の話だ。
あまり考えたくは無いがそういう事件が無いとも限らない。
「簡単な話です。肉体の損傷と幽体……魂の損傷は違うだけ。それに支障をきたすほどの損傷があればこちらで勝手に修繕しておきます。」
「体がダメになってても魂はそうじゃないって事か。それに逆も然りと。」
「その認識で間違いありません。」
「なるほどね……。」
「どうかしましたか?」
「いや、正体不明の違和感があって。」
考えてみるも分からない。何の気なしに空を見上げてみたらそこに答えがあった。
厳密には空と言うより、視界の上側ぎりぎり。
「あ? なんだこれ……。」
違和感の原因をつまんでみると点状の軽い痛みが頭部に伝わる。ひも状で、繋がっている物体だ。
そして違和感の原因が漸く分かった。色だ。あるべき色がそこになく、あってはならない色があった。
「
つまんだ物体は間違いなく髪と判断できる。感じた違和感は髪の色が違う事によるものだろう。理解すれば後は単純で慣れればそのうち忘れる物だっただろう。この色でなければ。
「あー……、マジか……。」
「そんな事で随分と傷つくんですね。」
「人間には失ってはいけない物が幾つもあるんだ。そのうちの一つが髪で、いま色を失って流石に危機感を感じている。」
「幾つもあるなら一つぐらい良いじゃないですか。」
「良くないんだよ……。」
この辺りの価値観は人によっては本当に伝わらない。今は説得するほどの元気も湧かないので、現状を耐える方に体力を回す。
「……一応言っておくと、幽体は肉体とは違う点が幾つもあります。髪の色はそのうちの一つですね。」
「……つまり?」
「仕事の際、肉体を伴う必要がある場合もあります。そういう時は生前の姿に戻れます。損傷している場合もさっき言った通りで、修繕された肉体になります。」
つまり。
この姿は幽体で、元の姿(=生前の肉体)とは相違点が幾つかあり、髪の色はその一つ。
言わば仮の姿。僕の髪が白髪になった訳ではない。
それに探すと1,2本見つかる程度の白髪ではなく、全体的に真っ白になっているのであればそれはもう白髪というより銀髪と言っても過言ではないのではなかろうか?
「よかった……。」
絞りだしたような安堵の声を漏らした僕に特に触れもせずの少女スフィラ。
そういえば僕は部下になるんだったか? 正直この死神がどうのという現状は分からない事の方が多いが、こんな些細な事でも最低限とはいえ対応してくれたのだ。
人外と関わるのは当然と言うべきか初めてだが、きっといい関係を築けるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます